公開終了
いつか戻る、その時に
-
村の子どもたちは、風のいたずらかと笑った。
丘の上で「誰かの声が聞こえた」と言ったのは、アミだけだった。風が草を揺らす音か、小鳥のさえずりの聞き間違い。けれどアミは確かに感じた。「誰かが、話しかけてきた」と。
家に帰ると、祖父がいつものように囲炉裏の前に座っていた。アミが話すと、祖父は驚いた顔で口をつぐんだ。そして、古びた木箱を取り出してきた。中には、拳ほどの大きさの灰色の石。
「これは伝声石(でんせいせき)じゃ。昔、人と人が遠く離れていても声を届け合えたという、不思議な石だ」
アミは目を丸くした。「これが喋ったの?」
祖父は首を横に振る。「いや、もう何十年も沈黙しとる。この石が声を発したのなら、何かが始まる兆しかもしれんのう」
翌日、アミは丘へ向かった。風が強く、草が波のように揺れていた。その中に、また聞こえたのだ。「――たすけて」
かすれた、小さな声。確かに耳元に届く。
アミは石を取り出し、そっと問いかける。「誰? どこにいるの?」
しばらく沈黙が続き、そして、もう一度。「――封じられた。ここは…遠い、昔の…塔の底」
声はとぎれとぎれだったが、そこに確かに“誰か”がいた。しかも、助けを求めている。
アミは村に戻ると、祖父にそのことを話した。祖父は真剣な表情でうなずいた。
「封じ人(ふうじびと)じゃろうな。かつて世界を支配しようとした者たちを、言葉の力で封じたという古の戦いがあった。その記録はほとんど残っとらん。だが、伝声石はその時代の技。石がまた声を拾い始めたなら……」
「封じられた者が、動き始めたってこと?」
祖父はアミの頭に手を乗せ、静かに言った。
「忘れられた過去が、目を覚まそうとしておるんじゃ。お前の声が、それを呼び起こしたのかもしれん」
アミは石を見つめた。声がしたのは偶然だったのか、それとも――。
小さな村の小さな丘で、静かに世界は動き出していた。
| 難易度 | パケット獲得 | 1回 | |
|---|---|---|---|
| フロア | 5階 | 挑戦者数 | 55人 |
| クリア人数(率) | 15人(27.3%) |
|---|---|
| 平均クリア時間 | 00:05:10 |
| 公開日時 | 2025年08月13日(水) 00:00 |
|---|---|
| ランキング終了日時 | - |
| 公開終了日時 | 2025年08月18日(月) 00:00 |
クリア時の獲得パケット
| 初期設定 | 6,000 MB |
|---|---|
| 残りのパケット |
|
ランキング上位者の獲得パケット
1位 |
2位 |
3位 |
|---|---|---|
| -- | -- | -- |
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ランキング
2025/12/08 現在
| 順位 | メンバー | ターン数 | パケット数 |
|---|---|---|---|
|
1位 |
はげマンさん |
49ターン
(2025/08/17 18:29) |
0 MB |
|
2位 |
|
73ターン
(2025/08/17 02:55) |
1 MB |
|
3位 |
ちこ⭐️さん |
79ターン
(2025/08/13 19:06) |
0 MB |
| 4位 |
87ターン
(2025/08/13 13:12) |
1 MB | |
| 5位 |
|
91ターン
(2025/08/13 22:30) |
1 MB |
| 6位 |
|
93ターン
(2025/08/14 21:29) |
1 MB |
| 7位 |
|
103ターン
(2025/08/13 05:13) |
2 MB |
| 8位 |
103ターン
(2025/08/13 08:52) |
2 MB | |
| 9位 |
シュッチさん |
109ターン
(2025/08/15 14:38) |
0 MB |
| 10位 |
111ターン
(2025/08/13 02:28) |
3 MB | |
| 11位 |
むぃさん |
127ターン
(2025/08/16 13:01) |
5 MB |
| 12位 |
127ターン
(2025/08/17 17:45) |
5 MB | |
| 13位 |
spbnさん |
139ターン
(2025/08/13 10:24) |
5 MB |
| 14位 |
ぼんくりさん |
139ターン
(2025/08/15 14:54) |
5 MB |
| 15位 |
141ターン
(2025/08/17 08:48) |
5 MB |
これ以上ありません。
52件のコメント
リオはそれから毎晩、石と話すようになった。声の主——ユラは少しずつ言葉を取り戻していった。最初は名前だけだったが、数日が過ぎると、断片的に記憶のかけらを語るようになった。
「たくさんの声が……重なってた。遠く離れていても、誰かの想いが届いて……」
「それって、他の伝声石のこと?」
「そうかもしれない。でも、やがて、声が……消えていったんだ。突然、全部……」
リオは、記録帳にその言葉を一つひとつ書き留めていた。かつて、世界が“声”でつながっていた時代があった。伝声石が各地にあって、離れた場所にいる人々が言葉や感情を交わしていたという。リオはそれを“物語”だと思っていたが、ユラの語る断片は、どうやら真実らしかった。
「誰かが……それを壊した。怖れていた。声が、世界を変えることを」
「それが……“封じ人”?」
「……その名を、聞いたことがある。封じ人は……言葉を、記憶を、封じてしまう者たち」
リオはぞっとした。村にも古い伝承がある。“かつて、言葉を奪う影が現れ、火と闇が広がった”と。子ども向けの怖い話だと思っていたが、ユラの声はそれを裏づけるようだった。
「でも、どうしてユラは石の中にいるの?」
「それは……わからない。たぶん……最後の瞬間、誰かがこの石に、わたしを……」
声はそこまでだった。記憶はそこで止まっているようだった。
その夜、リオは長老ハルのもとを訪れた。伝声石の話をすると、老いた目が細くなった。
「昔、この村にも一つだけあった。だが、いつの間にか声は途絶え、ただの石となった……それがおぬしの手に?」
リオは頷いた。
「もしその石が本物なら、封じ人の目に止まるかもしれん。気をつけよ……彼らは、まだどこかに潜んでおる」
リオは心に誓った。ユラの声を、二度と奪わせない。
忘れられた“声の時代”を、この手で取り戻すのだと。
「たくさんの声が……重なってた。遠く離れていても、誰かの想いが届いて……」
「それって、他の伝声石のこと?」
「そうかもしれない。でも、やがて、声が……消えていったんだ。突然、全部……」
リオは、記録帳にその言葉を一つひとつ書き留めていた。かつて、世界が“声”でつながっていた時代があった。伝声石が各地にあって、離れた場所にいる人々が言葉や感情を交わしていたという。リオはそれを“物語”だと思っていたが、ユラの語る断片は、どうやら真実らしかった。
「誰かが……それを壊した。怖れていた。声が、世界を変えることを」
「それが……“封じ人”?」
「……その名を、聞いたことがある。封じ人は……言葉を、記憶を、封じてしまう者たち」
リオはぞっとした。村にも古い伝承がある。“かつて、言葉を奪う影が現れ、火と闇が広がった”と。子ども向けの怖い話だと思っていたが、ユラの声はそれを裏づけるようだった。
「でも、どうしてユラは石の中にいるの?」
「それは……わからない。たぶん……最後の瞬間、誰かがこの石に、わたしを……」
声はそこまでだった。記憶はそこで止まっているようだった。
その夜、リオは長老ハルのもとを訪れた。伝声石の話をすると、老いた目が細くなった。
「昔、この村にも一つだけあった。だが、いつの間にか声は途絶え、ただの石となった……それがおぬしの手に?」
リオは頷いた。
「もしその石が本物なら、封じ人の目に止まるかもしれん。気をつけよ……彼らは、まだどこかに潜んでおる」
リオは心に誓った。ユラの声を、二度と奪わせない。
忘れられた“声の時代”を、この手で取り戻すのだと。
翌朝、リオは広場の隅でルカと顔を合わせた。彼は村一番の鍛冶職人の息子で、何かと世話を焼きたがる性格だった。リオが手帳に夢中になっているのを見て、興味を示す。
「また日記か? 最近、ずっと何か書いてるよな」
「……声を記録してるの。伝声石の声を」
「まさか。あれ、ただの石だろ?」
リオはポケットから青白く光る石を取り出し、静かに手のひらに載せた。ルカが目を細める。「光ってる……? それ、魔石じゃないのか?」
「違う。これは、“誰か”の声を宿してる石。ユラって名前の……」
彼女が説明を始めると、ルカは呆れ顔になりかけたが、話の途中で石からかすかな声が聞こえた。
「こんにちは……?」
ルカが息をのんだ。「今の、聞こえたぞ……誰かが……!」
リオはうなずいた。「信じてくれる?」
「信じるしかないだろ、こんなの」
ルカは鍛冶の知識を活かし、石に何か刻印がないか、表面を丹念に調べ始めた。「この構造……人工的に加工されてる。これは、道具だ。作られた“何か”だよ」
その瞬間、ユラの声がまた響く。
「気をつけて……“封じ人”が動き出してる。わたしの声を感じ取ったかもしれない……」
リオは背筋を凍らせた。「どこにいるの?」
「……わからない。だが、すぐ近くまで来る……気配がある」
その晩、村の外れの森から黒い煙が立ち昇った。畑が焼かれ、飼い羊が姿を消した。誰も犯人を見ていない。けれど、リオとルカは確信していた。
「封じ人が、来たんだ」
「ユラの声が、本物だって証明されたな……」
リオは石をぎゅっと握りしめた。この声を守らなければ。たとえ誰が相手でも。
“情報”を恐れる者がいるなら、それは“情報”にこそ力がある証なのだから。
「また日記か? 最近、ずっと何か書いてるよな」
「……声を記録してるの。伝声石の声を」
「まさか。あれ、ただの石だろ?」
リオはポケットから青白く光る石を取り出し、静かに手のひらに載せた。ルカが目を細める。「光ってる……? それ、魔石じゃないのか?」
「違う。これは、“誰か”の声を宿してる石。ユラって名前の……」
彼女が説明を始めると、ルカは呆れ顔になりかけたが、話の途中で石からかすかな声が聞こえた。
「こんにちは……?」
ルカが息をのんだ。「今の、聞こえたぞ……誰かが……!」
リオはうなずいた。「信じてくれる?」
「信じるしかないだろ、こんなの」
ルカは鍛冶の知識を活かし、石に何か刻印がないか、表面を丹念に調べ始めた。「この構造……人工的に加工されてる。これは、道具だ。作られた“何か”だよ」
その瞬間、ユラの声がまた響く。
「気をつけて……“封じ人”が動き出してる。わたしの声を感じ取ったかもしれない……」
リオは背筋を凍らせた。「どこにいるの?」
「……わからない。だが、すぐ近くまで来る……気配がある」
その晩、村の外れの森から黒い煙が立ち昇った。畑が焼かれ、飼い羊が姿を消した。誰も犯人を見ていない。けれど、リオとルカは確信していた。
「封じ人が、来たんだ」
「ユラの声が、本物だって証明されたな……」
リオは石をぎゅっと握りしめた。この声を守らなければ。たとえ誰が相手でも。
“情報”を恐れる者がいるなら、それは“情報”にこそ力がある証なのだから。
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