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いまさらだけど、電波とは? あまり理解できていないので電波の専門家に聞いた

いまさらだけど、電波とは? あまり理解できていないので電波の専門家に聞いた

ミノシマタカコ
ライター: ミノシマタカコ
ライター/ウェブ編集。2001年からウェブコンテンツ業に企画・ディレクションとして携わる。2012年よりフリーライターに。女性向けコンテンツのほか、アプリ、旅行、生活、クルマ、働き方など様々な分野で執筆中。趣味は狛犬巡り。日本参道狛犬研究会会員。

スマホを使っていると日常的に口にする「電波が強い」「電波が弱い」「電波が圏外」という言葉。でも、「じゃあ、その電波って何?」と聞かれると困ってしまいませんか。

とっても身近なのに、実はあまりよく理解していない存在である「電波」とは一体ナニモノなのか。

名古屋大学 宇宙地球環境研究所の中島 拓(なかじま・たく)さんに聞きました。

中島 拓さん
名古屋大学 宇宙地球環境研究所 基盤研究部門 気象大気研究部 助教。電波を使って地球環境から宇宙の果てまでを研究する電波科学の研究者。研究所では主に、オゾン層の破壊の進行状況など、電波を用いた地球環境の調査をしている。地球の大気の状態をモニタリングする装置を独自に開発し、世界中に置くことで地球大気環境の改善につなげる計画なども行う。

そもそも電波とはナニモノ?

ミノシマ
毎日手にしているスマホも電波が届かなければ、ネットにつなぐことも携帯電話での通話もできません。日々の生活を支えてくれている電波とは、そもそもナニモノなのでしょうか? 
中島さん
電波とは、振動する「電場」と「磁場」が波のように伝わる現象で、電磁波の一種類です。
ミノシマ
すみません……さっそく、わかりません!
中島さん
電場や磁場というのがまず聞き慣れない言葉ですよね(笑)。中学や高校の頃の理科の授業で、電界や磁界という言葉を習ったと思いますが、電場=電界、磁場=磁界と置き換えていただいても大丈夫です。
ミノシマ
電界、磁界……。聞いたことがあるような気もします……。
中島さん
では、電波についてわかりやすくするために、まずは電磁波の歴史から説明しますね。

電磁波の歴史

中島さん
中学の理科の授業で、銅線に電流を流しているときに周りに方位磁石を置くと、磁石の針が同じ方向を向いたりする実験があったと思います。これは、電気の変化によって銅線のまわりに磁場が発生していることを確かめる実験で、1820年に発見された「アンペールの法則」です。
中島さん
一方で、磁石を移動させると、磁石のまわりに発生している磁場も変化します。この変化によって電気を流すことができます。これが1831年に発見された「ファラデーの法則」です。高校の物理で、コイルを用いた電磁誘導の実験で試したことがある人もいるかもしれません。
磁石をコイルに近づけたり遠ざけたりすると、検流計の針が動く

中島さん
アンペールの法則とファラデーの法則、この2つから、空間上では電場と磁場はお互いに変動し合うことがわかります。これを「電磁場」と呼びます。はじめて電磁場を説明したのがマクスウェルという人で、1864年のことでした。
中島さん
でも、このマクスウェルは理論的に「電磁波があるかも」と予言しただけなんです。電磁波の存在を実際に確かめたのはヘルツという人で、1888年のこと。Hz(ヘルツ)という周波数の単位は、彼の名前からきているんですよ。

ミノシマ
なるほど!
中島さん
電場と磁場がともに影響し合う関係をまとめると、だいたいこんな図になります。

中島さん
Y軸上の電場が変化すると、それに直交する形で磁場が変化します。そして磁場が変化すると、今度は直交する電場が変化します。それがどんどん伝わって、波としてX軸の方向へ伝わっていくものが「電磁波」です。

電波と電磁波は同じ?

ミノシマ
電場と磁場が密接に関わっていることは、なんとなく理解できました。でも、電磁波と電波の違いがわかりませんでした!
中島さん
電波は「電磁波の一種」なんです。電磁波って、実はたくさんの種類があるんですよ。

電磁波の種類。私たちが日常的に使っている電波であるLTE(4G)の周波数帯は700MHz〜3.5GHz、治療や食品の滅菌などに使われるガンマ線の周波数は3,000,000GHz以上

中島さん
先ほど、電場と磁場が波として伝わるという話をしました。その様子を線で表したとき、一番高いところから隣の一番高いところまでの間隔を「波長」、1秒間にどれだけこの山があるか(=振動するか)を「周波数」と言います。

中島さん
波長が長いと電波になり、短いと可視光線、さらに短いとX線、というふうに名前が変わるのです。でも、すべて電磁波の中の1つです。

なぜ電波は見えないの?

ミノシマ
可視光線は見えるのに、同じ電磁波である「電波」が目視できないのはなぜですか?
中島さん
それはなかなか難しい質問なんですけど、人間の目が可視光のみを感じる仕組みにそもそもなっている、または、そういうふうに進化したからとしか言えないですね。この地球で生きていくためには、それが最良だったのだと思います。でも、ヘビには赤外線が見えて、昆虫には紫外線が見えると言われています。もしかしたら、電波が見える生物や宇宙人というのも、どこかにいるのかもしれませんね。

宇宙人には電波が見える?

ミノシマ
電波がもし見えるとしたら、どんな色なんでしょうか?
中島さん
たとえば、私たちの目だと波長が長いほど可視光線は赤く見えます。夕焼けの空が赤く見えるのはそういうことですね。逆に青空は、波長の短い可視光線を見ていることになります。なので、もし電波の見える生物がいたら、波長の長い方の電波と短い方の電波とで色の違いがあるのかもしれませんね。
ミノシマ
宇宙人には、地球が電波によってカラフルに見えている可能性もあるのですね。
中島さん
地球って、宇宙から見ると電波でギラギラ光ってるんですよね。もう世界中から四方八方に人工的な強い電波が飛ばされていて。なので、宇宙人が地球からの強い電波を受け取って、地球人を発見してくれる可能性があるのではないかと考えている人もいます。
中島さん
また、それを逆に利用して宇宙人を発見しようという試みもあります。たとえば電波を民生利用している宇宙人がいるとして、その放送をキャッチすれば「宇宙に何か文明があるぞ」と発見できるんじゃないかって。それは地球外知的生命体探査といって、まじめに研究している天文学者も実は世界にたくさんいます。
ミノシマ
世界は広い……。

なぜ電波は電線がなくても伝わるの?

ミノシマ
電波も可視光も電磁波の一種であるなら、自分たちが暮らしている空間の周りは電磁波だらけということでしょうか?
中島さん
そうなんです。空気と同じように、私たちの周りは電磁波が満ち満ちているんです。
ミノシマ
周りにいっぱいあるということは、電線がなくとも、空気の中を伝わってきているんですね。
中島さん
はい、何もない空間も電場や磁場を伝えます。こすった下敷きで髪の毛が持ち上がる静電気は「電場の伝わり」、強力な磁石が離れたものを引き寄せるのは「磁場の伝わり」です。
ミノシマ
なるほど。空間を伝わるからこそ、スマホの電波も無線で届くのですね。でも、電波にのって声や映像までも届くのはなぜなのでしょうか?
中島さん
電波には「情報を載せて送信する」という技術があって、これを「変調」と言います。わかりやすく説明すると、プレゼント(=情報)を、段ボールにいれて(=変調)、電波というトラックが運んでいる(=送信)イメージです。

ミノシマ
自分の周りをこういった通話や映像の情報を載せたトラックが、いっぱい走っているということなのですね。でも、もしトラックを捕まえて、勝手に段ボールを開けてしまう人がいたらどうなるのでしょうか?
中島さん
盗聴になりますね。そういったことが起こらないように、段ボールを送った相手じゃないと開けられないようにするのが「変調」という技術です。この変調にはいろいろな種類があります。

1. アナログ変調
周波数変調(FM:FMラジオ・アナログテレビの音声)、振幅変調(AM:AMラジオ・アナログテレビの映像)、位相変調(PM:あまり使用例はない)

2. デジタル変調
FSK(モールス符号通信)、ASK(デジタル移動通信)、PSK(デジタル放送・2G以降の携帯電話)

3. パルス変調
PAM(イーサネット通信)、PCM(音楽CDやBDの書込み)、PWM(電力制御)、PPM

中島さん
受け取り側は、変調された情報を元に戻す「復調」という仕組みを持っています。ラジオの場合はラジオの受信機、電話やメールの場合は携帯電話によって、情報の入った段ボール箱をあけて中身を確認できます。ラジオやテレビの電波は比較的簡単に復調できますが、携帯電話などは「秘話」や「暗号化」によって、簡単に盗聴されないようになっています。

なぜ「電波がいい・悪い状態」になるの?

ミノシマ
少しずつですが、なんとなく電波というものの姿が見えてきた気がします! では次に、よく口にする「電波がいい・悪い」という状態は、どのようにして起きるのでしょうか?
中島さん
電波は、真空の中なら光の速度で伝わります。実は真空状態の遠い宇宙からも電波がやってきているんです。でも地球上には水蒸気や建物など、さまざまな障害物があるので電波の強さは徐々に弱まっていきます。電波が弱い=電波が悪いということですね。
ミノシマ
「電波が弱まる」を形に表すと、どのようになるのでしょうか?
中島さん
先ほど電波を波で表すという話をしましたが、波の高さが小さくなった状態と言えます。
中島さん
たとえば、広い静かな湖の真ん中に1つの石を落とすと、水の波紋が広がります。でも、いつか消えてしまいますよね。その消える前、波が少ししか立っていない状態こそが、電波が弱い状態なんです。

中島さん
また、湖面から飛び出るくらいの大きな岩があったりすると、波紋はその岩を回り込むように描かれていくのは想像できるでしょうか。電波も回り込んだり、建物に反射したりしながら進むので、都会で建物の陰に入ってもすぐに携帯電話が切れたりしないのです。
ミノシマ
なるほど。ちなみに、ラジオなどが途切れ途切れになる状態のときは、電波はどのような状態になっているのですか?
中島さん
受信機側の性能で「ここからここまでの強さの電波なら受信できる」というボーダーラインが決まっています。途切れ途切れになるときは、電波の強さがそのボーダーラインを越えるか越えないかのギリギリの状態なんです。

ロマンにあふれる電波の世界

ミノシマ
先ほど、電波は真空だとどこまでも届くとおっしゃっていましたが、どれくらいの距離まで届くのでしょうか?
中島さん
宇宙の果てまでは約138億光年(1光年は、約9.5兆キロメートル)と言われていますが、そんな宇宙の果てからも電波が届きます。
ミノシマ
想像がつかない……。
中島さん
私自身は、110億光年離れた天体からの電波を望遠鏡で受け取ったことがあります。多くの天体は何らかの電波を放射していますが、これは110億年前に放射された電波が、いま地球に届いているんですね。逆に言うと、いま私たちが見ているその天体は、110億年前の姿を見ているとも言えるわけです。

ミノシマ
110億年も前のことだから、いまは全く別の姿になっているのかもしれないってことですよね。
中島さん
はい。今はもう存在すらしていないかもしれません。
ミノシマ
そんなことまでわかる電波って、すごいですね。
中島さん
電波はすごいです! 私が電波の研究を続ける理由はまさにそれでして、本当にすごいんです。面白いんです。
ミノシマ
電波の魅力って何だと思いますか?
中島さん
電波は目に見えないものなのに、私たちの身の回りの普通の生活でも使われていますし、宇宙の果てまで調べられますし、そんなことができるものって他にはないですよね。
ミノシマ
たしかに。
中島さん
私たちの研究で、宇宙からの電波を受信するときは電波望遠鏡という電波を受けるための特殊な望遠鏡を使って観測するんですけども、例えば110億光年もかなたから受信された電波がパソコンの画面に表示されたのを見てるわけですね。そういう壮大な時間とか空間のスケールを想像しながら眺めていると、やっぱりロマンがあるというか。人間ってすごいことができるようになったなと。そこが魅力で、やめられない理由だと思います。

国立天文台野辺山 電波望遠鏡

ミノシマ
私も今回いろいろお聞きして、電波にロマンを感じました!
ミノシマ
……最後に変な質問をしてしまいますが、世の中には「電波系」というネットスラングがあるのをご存じですか?

電波系……神などのお告げや暗示を受けたとして、それに従って支離滅裂な言動をする人をいう。お告げが電波を介してなされたとする場合があることから。

Weblio辞書「電波系」から引用

中島さん
初めて知りました! 面白いですね。

ミノシマ
世間でこのような使い方がされていることについて、電波の専門家としてどう思いますか?
中島さん
実は電波業界でも「電波系」って普通に使ってしまうんですよ。私のように電波を使って宇宙を研究している人たちのことを「電波系の天文学者」と言ったりします。
ミノシマ
じゃあ、先生も「電波系」なんですね!
中島さん
そうなんです。私自身、中学生の時にアマチュア無線にハマったことがきっかけで、もう30年も電波とお付き合いしていますし、周りの研究者にも変テコな人が多いので、ネットスラングの意味どおりの「電波系」と言っても間違っていないと思いました!

編集:ノオト
イラスト:サンノ


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525 件のコメント
76 - 125 / 525
高校時代に教えて欲しかった。
とても分かりやすい。
やはり、大学入試を物理で受けなくてよかったと思い出させてくれる記事でした。(^^ゞ
難しい。難儀なこっちゃ。(^^ゞ
わかりやすく説明してくれているはずなのに、眠くなる~。

>> kanapon さん

理解しにくい難しい話をされちゃうと、眠くなっちゃいますよね(笑)
宇宙人から見た地球のくだりが面白かったです☆
説明を読み始めたのですが…
最後まで到着しませんでした~笑

眠気がない時に
勉強させていただきます!
電波も電気も目に見えないためにわかりづらいから、なんとか可視化する方法はないものかと思っています。
なんとなくわかったような気がします笑
今さらですが、電波というものを理解いたしました。
難しいけど、面白いです😅
今更ながら、すごい電波って技術ですね😄
どのくらい理解できたかはともかく、勉強になりました。
ありがとうございます。
私は中学生時代に読んだSF小説で、光が宇宙空間で伝わる間に波長が伸びて電波として捉えられる、と知って驚き胸を高鳴らせたことを思い出しました。

>> ミンミンゼミ さん

全部見えちゃったら(常時とか)そりゃもぅ〜身の回り電波だらけだから、大変になりますよね…こんがらがってじゃまで(^_^;) スパゲティシーケンス、基板配線みたくなってることでしょう…

余談ですが、身近なものだとテレビとかのリモコンから発光される?電波発信は?普段目にみえないけど→スマホのカメラで見えるようになりますよ〜 リモコン先端をスマホのカメラ起動してリモコンボタン押すんです。するとピカピカ光って見えます! 電池切れかな?リモコン不良かなって診断したい時にも使えますね。 他にも可視化じゃないけど、リモコンをラジオ(AMの低い周波数の方で)近づけてボタン押すと雑音入るんで、発振してるかわかったり。雑学でした〜m(_ _)m
すごくわかりやすい内容でした。電波って光と同じだったんですね。
理科の授業を懐かしく思い出しました。
勉強になりました!
退会済みメンバー
退会済みメンバーさん
ビギナー
へぇ!

>> ケンマイネオ さん

特別に見たいな〜と思った時にメガネなのかアプリなのか、なにか可視化できるツールを使うことでその場所だったり量だったりわかれば便利だろうなと感じたのです。
学校の勉強でもコンセントの100Vが可視化できたら、「あ!ほんとに100Vだ!😳💡」って楽しいと思うんですよね。
ギャー、これは強烈。暇なときに読みます。
こういう企画好きです。勉強になります。

>> ケンマイネオ さん

テレビ等の電化製品のリモコンから出ているのは赤外線です。可視光線ではない赤外線がスマホ等のカメラを通すと可視化するのは、カメラレンズが捉えた赤外線を光の3原色フィルターが合成することにより白色として再現するからです。ご参考迄。
PHSの時の方が体が楽だったような気がする。
あくまで気がするだけです。
カズレーザーさんのように電波が見えれば!!
大学で学んだ、量子力学を少し思い出しました。
退会済みメンバー
退会済みメンバーさん
ビギナー
なかなか面白い読みものでした。
今までは、電波=宇宙から電波ユンユン、頭に銀紙 って感じでしたが、これからはアカデミックに考えれそうです。
興味深く拝読しました。
電波のことは知らないことだらけでしたが、勉強になりました。
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