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スマホが普及した今、「電子辞書」はどうなってるの? カシオに聞いてきた

スマホが普及した今、「電子辞書」はどうなってるの? カシオに聞いてきた

伊藤 駿
ライター: 伊藤 駿
コンテンツメーカー・ノオトのライター、編集者。SF映画とポップミュージックをこよなく愛する。

中学生や高校生のころ、受験勉強に役立ったアイテムの電子辞書。今も使っている、学生時代に使っていた、いやいや、自分は学生のころにはそもそも無かった……という方もいるかもしれません。

筆者はというと、高校生だった10年以上前に電子辞書を初めて手にとりました。当時は国語や英語学習に使う各種辞書のほか、英単語を発音してくれる機能が斬新だったなぁ……程度の記憶。卒業して就職したら、電子辞書をまったく使わなくなってしまいました。

▲ 学生時代、実際に使用していた電子辞書(筆者撮影)

▲ 電池を入れ替えたら、当たり前のように電源が入った。検索履歴等も当時のまま

しかし、そんな電子辞書が、実はここ数年で大きくアップデートしているらしい!

画面がカラーに、といったハード面の進化もさることながら、肝心なのは収録されているコンテンツ内容。英語検定の問題集や数学・物理の公式集、社会科だと地歴公民の用語集も収録。社会人向けのものはビジネスや冠婚葬祭のマナー辞典、家庭医学の辞典、図鑑や「日本の名城」などのビジュアルコンテンツまで……。スマートフォンを使ってるうちに、電子辞書がこんなに進化していたなんて!

▲ 2006年頃発売の電子辞書の画面。文字の表示はドットで、当然モノクロだったのが……

▲ 『ビジュアル 大世界史』からナポレオンの絵。これが電子辞書の画面です

今回は、そんな電子辞書の過去と現在について聞くべく、20年以上続く電子辞書のブランド「EX-word(エクスワード)」シリーズを展開しているカシオ計算機株式会社を訪ねました。

▲ カシオ計算機株式会社 事業戦略本部の阿部 亙(わたる)さん

こんなにコンテンツが増えた理由、ここ数年の変化、そして、スマホ主流の時代に、電子辞書の価値とは……。電子辞書の商品企画を担当している阿部さんにお話を伺います。


電子辞書ユーザーのニーズは「調べたい」から「学びたい」へ

——自分が電子辞書を使っていたのは学生だったおよそ10年以上前なので、久しぶりに触ってみたらコンテンツが想像以上に増えているので驚きました。

およそ10年前だと、学生向けの電子辞書に収録されているコンテンツは、国語や英語の各種辞書をはじめとした主要5教科に対応するものがメインだったと思います。その他の機能としては、英単語の発音を聞けたり、読めない漢字をキーボード下のスペースに手書きで入力できたり……といった感じですよね。

その時からすると、収録されているコンテンツはかなり増えたと思います。現行の機種には、学習向けコンテンツでしたら英語検定の問題集や地歴公民の用語集、教養系のコンテンツでしたら百科事典やカラーの図鑑などが収録されています。英会話の動画コンテンツなども視聴することができますよ。

▲ 動画コンテンツとして、NHKの英会話テレビ番組『リトル・チャロ』を収録 ※収録コンテンツはモデルによって異なります

——どういった経緯でここまでコンテンツを増やしたのでしょうか?

やはり、モバイルツールの存在が大きいですよね。今や、簡単な調べ物はスマホで事足りるようになりました。そこで電子辞書は、ユーザーの「調べたい」というニーズに加えて、「学びたい」というニーズにも応えられるようにシフトしています。

——「勉強したい」ニーズに応えるコンテンツとは、例えばどんなものがありますか?

『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)や『ブリタニカ国際大百科事典』(小項目電子辞書版/ブリタニカ・ジャパン)といった世の中でも広く読まれている百科事典を収録しています。あとは、日本の名句を読んで季語を調べたりすることができる『俳句大歳時記』(角川学芸出版)、『ビジュアル・ワイド 日本名城百選』(小学館)なども、ニーズに応えて収録しました。

▲ 『ブリタニカ国際大百科事典』より。南アメリカの地図を表示して……

▲ 画面をタッチすると、その世界遺産のページを表示

——もちろんコンテンツだけでなく、ハード面でも進化していますよね。

そうですね。大きなところだと液晶画面がタッチパネルになり、モノクロだったものがカラーになりました。百科事典や図鑑、動画コンテンツなどビジュアルが重要なものも収録できるようになったのは、画面がカラーになったことが大きかったです。

他にも、色が使えるようになったことで「英単語に蛍光ペンでマーカーを引く」というような、より紙の辞書に近い使い方ができるようになりました。

▲ チェックした英語例文にカラーマーカーを引く。本体はコンパクトでも、キーは大きめなので入力もスムーズ

一方で入力部は、キーボードのままですね。現在はタッチパネルが主流ですが、ボタンがあったほうが入力に手間取らない、という人が多いんですよ。

——これだけハード面で進化しているのであれば、スマホと同様の通信機能などをつければ、もっと活用の幅が広がるのでは……と思ってしまうのですが。

もちろん、通信機能を付けることは技術的には可能です。通信機能を付けることで、収録されるコンテンツの幅が広がるし、実現できることが増えるので。しかし、いつも考えているのは「通信機能は、あくまでも手段である」ということなんですよ。

学生の勉強に役立つ形であれば、やってみる価値はあると思いますが、学校で使われる以上は先生などにもヒヤリングを行いながら、学校で支持していただける商品にしていきたいと思っています。


「軽薄短小」があだとなった、初期の学生向け電子辞書

——やはり、電子辞書にとって「先生から支持されている」というのはとても重要なんですね。

社会人向けやシニア向けの電子辞書もありますが、学生向けのものは、先生と生徒、その両方の声を聞きつつ、収録するコンテンツを決め、製品開発にあたります。例えば英単語集でしたら、数ある単語集のなかでも高校で特に支持されているものを先生と学生の声を聞いて選定する……という感じですね。

しかし、今でこそ「電子辞書=学生のもの」というイメージが強いですが、発売当初はシニア層が使うものだったんですよ。電子辞書は紙とは違って表示する文字を大きくすることができるので、「虫眼鏡を使わなくても大丈夫」と好評で。

——検索の利便性というよりも、視認性によって選ばれていたんですね。

カシオが学生向けの電子辞書を発売したのは、2003年です。中学生や高校生にはどのような辞書やテキストの需要があるのかを調査したうえで発売に至りました。

——中高生の需要に合わせた部分はどこですか?

例えば、社会人向けの電子辞書にはないですが、学生は授業で必要になる古語辞典を収録していたりします。他にも英単語の音声数を充実させたり、英和・和英辞典も専門家向けの本格的なものではなく、『ジーニアス』(大修館書店)シリーズなど、使用している学生が多いものに変更したりしました。

▲ 高校生向けの電子辞書は特に収録コンテンツが多く、その数はなんと200以上(カタログより)

——電子辞書を学生へ浸透させていくにあたって、先生からはどのような声があったのでしょうか。

どうしても「辞書は紙のものを使わないと駄目だ」という先生はいらっしゃいましたし、そういった声は今でもあります。しかし、発売当初から生徒の間でどんどん広まっていきました。必ずしも先生から推奨されていない状況でも、電子辞書の「薄くて軽い」という利便性が支持されたんだと思います。

そもそも紙の辞書は重たいから、カバンに入れて持ち運びたくない。かといって学校のロッカーに置きっぱなしだと家で勉強するときに使えなくなってしまう。開発チームも、学生時代に同じ経験をしていて「この状態をなんとかできないか」という思いがあったんですよ。

——発売後には、どのような反応が寄せられましたか?

リアクションもおおむね好意的でした。しかし、発売して数カ月経ってから修理依頼が相次ぐようになりまして……。

——数カ月で故障? 早すぎるような気がしますが……。

「学生が電子辞書のような精密機器をどのように扱うか」をきちんと考慮できていなかったんです。そのときに発売した機種は、電子機器の理想的な形状である「軽薄短小(薄くて、軽くて、小さい)」を目標に開発したものでした。通学用のカバンに入れていつも持ち歩くので、厚さは1cm以下の非常にコンパクトなものだったんです。

▲ 現在のモデル。厚さは一般的なスマホよりちょっと厚めのおよそ1.8cm

しかし中学生や高校生のカバンって、ほうられたり、通学中の満員電車でカバンが圧迫されたり、ガタガタ揺れる自転車のカゴに入れたり……と、中に入っている精密機器にとってはかなり過酷な環境になりますよね。そんなカバンの中に入れて持ち歩かれているので、軽薄短小のボディーでは衝撃に耐えられなかったんですよ。

さっそく、翌年発売のモデルから本体の耐久性を改善しました。現行のモデルに至るまで、「ボディーが堅牢であること」はずっと守り続けています。


ネットが信頼できない現在、改めて見直される正しい情報の価値

——しかし、収録されたコンテンツが増えたとはいえ、電子辞書に収録されている情報はインターネットで検索すればヒットするものも多いですよね。そんな現代でも電子辞書を持つメリットとは、どういった部分だと思いますか?

なによりも、「正確で信頼性のある情報を手に入れられること」だと思います。インターネットで検索できる情報は確かに増えましたが、その弊害として正しいかどうかがわからない不確かな情報も増えました。

2016年から2017年に起きたキュレーションサイト問題や、現在も大きな課題になっているフェイクニュースなど、ネットはその信頼度が疑問視される出来事が続いています。

しかし電子辞書は、そういった真偽があやふやな情報にさらされることなく、正しい情報にアクセスできる。辞書や百科事典の特性が、インターネットの環境が変わることで“一周回って”再び価値を持ってきたのかもしれません。

——確かに、さまざまな知識に一瞬でアクセスできるのがインターネットの魅力だったはずなのに、「ネットに載っている情報は信頼できない」という現在の状況は、電子辞書が普及し出した10年以上前には想像もできなかったものだと思います。

しかし、電子辞書はどうしてもそれ単体で使うような「主役になる」商品ではないんですよ。メインになるのは本や教科書、そしてスマホです。なので、その脇に電子辞書をおいてユーザーが知識を得るために使用するような、身近な存在であればいいと思っています。

それに、スマホと電子辞書は「スマホがあるから電子辞書はいらない」というような、お互いを潰し合う関係ではないと思うんです。「スマホでWEBサイトを表示しながら、そこで気になった情報を電子辞書で調べる」といった、デュアルディスプレイのように2台使いをしている学生もいるそうなので。

——最後に、今後の電子辞書がどうなっていくのか教えてください。

世の中のニーズを捉えてコンテンツを増やしていくのはもちろんのこと、そのコンテンツを搭載している電子辞書というハード自体をどのように進化させるのか、引き続き考えていきたいですね。

 

まとめ

取材後、カシオの電子辞書を触らせていただきました。

収録されている、およそ200もの膨大なコンテンツに圧倒されるなか、特に印象に残ったのが「日本文学2,000作品」。芥川龍之介や太宰治など、著作権の保護期間を過ぎた作家の文学作品がそっくりそのまま収録されているコンテンツです。これがあれば、「過去の名作」に触れるハードルがぐっと下がりますね。

他にも、「お気に入り辞書登録」機能や、収録された全てのコンテンツから特定の単語を検索できる機能も搭載。知識を、縦にも横にも広げられます。

収録内容からハード面まで、今後も電子辞書の進化から目が離せません。皆さんも、見かけたときにはちょっと手にとってみてはいかがでしょうか?

(写真=二條七海/編集=ノオト

取材協力:カシオ計算機株式会社





55 件のコメント
1 - 5 / 55
山盛り入っていてもなかなか使いこなせないので、恥ずかしながら置物になっています。
私も押入れのどこかに眠らせてます!
ネットの情報が信用できないってのは大きいですね。
Wikipediaやニュースサイトばかりが引っかかって、結局本を開いて確認し直すっていうのを何度もやってます。
あとは通信機能が付いてないのは大事かと。
ブラウザとか搭載されたら授業中に遊ばない自信がない…。
数年前に娘が高校入学するのときに、学校指定でCASIOさんのを買わされた!!
・同形でもネットで購入だめ
・中古だめ
結局、学校指定の所で殆ど割引無く買わされたよ。

この時代、中古は壊れたり辞書が古かったりと学校で使うのが問題が出るかと思うが、同型で型番まで同じならネットで安く買いたかった。

電池もちも悪く充電電池を使っていたが、コストコで大量に電池を買う羽目に・・・。

学校で使うのには便利みたいだが。
親から見ると学校の考え(思想)の為、購入方法で良いイメージは無くなっているのが正直です。
この形で、スマホを作って欲しい!!

売れないとは思うけど、一部からは圧倒的な支持を受けそう。
(私はその一部)

画面サイズは6~7インチ程度。
キーボードを備え、液晶部を回転させて折りたたむことで、タブレットのように使う。
キーボード部は液晶部が蓋をする形なので持ちやすさはキープしたまま。

昔はザウルスが、この夢を適えてくれそうでしたが…。

CASIOPEAをandroidで復活させて欲しいなぁ~。
もちろん、薄型軽量で。
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