緊急地震速報ってどうしてあんなに怖いの!? 作った人に聞いてきた!
1990年兵庫県生まれ。Webを中心におもしろい記事を書こうと日々奮闘しているフリーのライター。女性が脱ぐとなぜ面白くならないのかいつも悩んでいる。
あけましておめでとうございます!
2019年1月17日で、阪神淡路大震災から早や24年が経とうとしています。
当時4歳だった私は、神戸の自宅で被災しました。部屋は真っ暗、水道が止まり窓は割れ、自宅からは避難して…….。あまりにも非日常な体験は、今でも忘れることはできません。
そして、2018年の6月18日に起きた大阪北部地震。
関西のみなさん、いやー揺れましたよね……! 私の住んでいる京都は震度5強でした。家具の倒壊などはなかったものの、久々の大きな地震は本当に怖くて……。心から命の危機を感じました。
というか、それ以上に……
緊急地震速報が、めちゃめちゃ怖かった〜!
私にとって、”揺れを伴う”緊急地震速報を聞くのは人生初だったのですが、
本当に怖い! マジで怖い!
めちゃめちゃ揺れてる中で大音量で鳴る「ギュイイイ! ギュイイイ!」のサイレン!
そしてこれまた大音量で鳴る「地震です、地震です」と妙に落ち着いた女性の声!
多分なんらかの理由から、これだけビックリする音になってるんだろうけど……!
あの日、緊急地震速報で飛び起きてからというものの、次にいつ鳴るかが不安で不安で仕方がないのです!
うう、怖いよ〜! 緊急地震速報に対するこの、えもいわれぬ恐怖心をやわらげたいっ!
いや、待てよ?
もしかして……
音の製作過程を知ったり、
作者が優しい人だったりすれば、
この怖い音へのビクビクもやわらぐのでは……!?
緊急地震速報を作った人に話を聞こう
というわけで、ジャーン!
スマホ版の緊急地震速報を作ったご本人、小久保隆さんにお越しいただききました!
紹介:小久保 隆(こくぼ たかし) 環境音楽家、音環境デザイナー、株式会社スタジオ・イオン代表取締役。 都市、オフィス、ミュージアムなどのパブリックスペースへの音や楽曲を制作し、環境をデザインするかたわら、プライベート空間にも癒しの音楽を提供している。 |
ちょっと待って、この方……
超〜優しそう〜
こんなに優しそうなお方が、あの恐怖を増長させる激しいサイレンを……!?
とにかく、お話を聞いてみることに!
こういった、アーティストとしての活動がひとつ。加えて、環境音やアテンションサウンドを作る音環境デザイナーとしての仕事もしています。
*アテンションサウンド … 館内アナウンスのチャイム音や、テレビのニュース速報音などの、人の注意をひく音のこと。
はい。音を介して人と社会が交わるとき、”音”が環境に対して何を与えるためにあるかを整理して、その目的を十二分に果たせるあり方について考え、実際に制作する仕事です。
たとえばこちら。電子マネー『iD』の決済音は、僕が作ったんですけど。
▲電子マネー「iD」の決済音。聞いたことがある人も多いのでは…!
この決済音は、『これで決済が終わった』と明確に伝わりさえすれば、ただの簡単な電子音で終わらせることもできます。
だけど、その音がどうあるべきかを考えて作るまでが僕たちの仕事。この音は、『買い物をした』という完了報告だけでなく、『買い物をしたことで、豊かで幸せな気持ちになる』ことを目的として作りました。
ありがとうございます。こういった音は生活のなかでどうしても耳に入ってくる音なので、CDみたいに『聞きたくないから聞かない』という訳にはいかない音ばかり。環境音を作るのは難しい仕事ですが、そのぶん面白いですよ。
小久保さんはこの他にも、「六本木ヒルズアリーナ」「クイーンズスクエア横浜」などの施設内を流れる環境音や、なんとEXILEのATSUSHIさんのソロアルバムに楽曲提供をしたり、坂本龍一さんと「天外魔境 ZIRIA」のBGMを手がけたりもしていらっしゃるそう。お、大物だ〜!
そういうご意見をいただくことも少なくないんですよ。
ただ、あの音の意図としては、数秒間のあいだに『机の下に隠れよう』『ガスを止めよう』という危機意識を持てる音にしたかった。脳のスイッチを切り替えられる音であることを意識したんです。
うーん……確かに。あの音って、どれだけウトウトしててもハッと起きられそうですよね。
じつは私、去年の11月に大阪で弱い地震があったとき、ちょうど自宅でウトウトしてたんですけど、夫に『地震だ!』と声をかけられても全然起きられなかったんですよ。
あのまま強い揺れがきてたらヤバかったな、とゾッとしたのを思い出しました。あのとき、地震速報が鳴ってたら飛び起きられてたかもしれない……
まさにそうです。どれだけリラックスしていようが、すぐに最初のアクションに移れるような音にしました。
すごくビックリさせる音なんですが、人の命を救うための音なので、なんとか『仕方がない』と思っていただけたらと……!
2007年に株式会社NTTドコモさんから制作依頼があって作りました。
ただ、それまでは人の行動を変えるようなサイン音を作ったことがなかったので、かなり研究しましたね。『日本サインデザイン協会 サイン音研究会』という協会に資料を提供していただいて、音が合図を送るという事がどうあるべきか、世の中のサイン音にはどういう種類があるのかなどを調べたんですけども。
緊急時に、楽音を認識する脳の回路を通っていてはダメなんです。もっと生命的な危険を感じるところに直接届かなくちゃいけないと思って、シンプルに音が上がっていくスウィープ音という形を選択しました。
2.伝わりやすい音の周波数を使う
はい。スマホは鞄やポケットなどにしまわれるので、緊急地震速報は布を通して聞くことが多くなりそうだなと。布にはそれぞれ吸収しやすい音の周波数がありますし、スマホのスピーカーは小さくて、機種によって出にくい音もあるんです。
そういったさまざまな条件を踏まえ、『全ての周波数を持つ音にする』という意味でもスウィープ音を使用しています。
はい。音が3回の連続音は、心理的にも特別な意味があるんです。
たとえば、トイレのドアをノックするとき、1回だけ『コン』と鳴らす人はあまりいない。2回だと、最も一般的。でも3回だったら、ちょっと気になりませんか? おおよそ緊急性を要するときや、用事の内容が重要だというときに3回の連続音が効果的なんです。
『シンプルな音を3回繰り返す』。このコンセプトは、割とすぐに決めました。
あれは、別撮りされて追加されたみたいです。僕も詳しくは知らないんですよ。
緊急地震速報に声の警報「地震です」を順次導入
調べてみると、サイレンの合間に響く「地震です、地震です」といった女性の声は、2013年に導入されたということがわかりました。その声を担当された方にも取材したかったんですが、契約上誰の声かは明かせないとのことで、残念ながらNGが……!
そうなんです。サイレンが完成して、ドコモの役員さんに聞いてもらったとき、その場が凍って。
『小久保さん、この音は電車や街中などの人が集まる場所で一斉に流れる可能性があるんです。この音が同時に何十個ものスピーカーから流れたら、パニックになりませんか?』と言われてしまって……
はい、怖がらせてすみません。
でも……緊急地震速報の制作後、東日本大震災が起こりました。制作した当時はまさか、あんな高頻度で鳴るとは想像していなくて……揺れに直面した方々から色々とご意見をいただいて、本当に申し訳ないと思いました。
そうですね、東京でもかなり鳴っていたので、東北では地震後しばらくの間、いたるところであの音がしたと思います。
緊急地震速報は、制作段階ではめったに流れないといった想定でしたので、『命にかかわる優先度がいちばん高い音』として、マックスの注意喚起度を与えられるような作り方をしたんですが……
そうなんです。僕は大学で授業も受け持っているんですが、東北出身の生徒の中には緊急地震速報の音をとても嫌がる子もいますし。
コマーシャルの音楽でも、1日に100回流れるものを作るときと、1週間に数度流れるものを作るときでは、アテンションの度合いを変えるんです。僕としては決して怖く作ったわけではなく、あくまで最も注意を引く作り方をしただけなのですが、結果としては大変怖い思いをされた方もいらっしゃるので、申し訳ないことをしたなと。
音のプロである小久保さんが「いちばん癒される音楽」って何?
緊急地震速報について色々お聞かせいただきありがとうございました。最後に、音楽のプロでいらっしゃる小久保さんに個人的に質問があるんですが……。
私、仕事してるとき、本っ当に集中できないんです……。『仕事に集中できる音楽』とか、『休憩中に100倍癒される音楽』を教えてください〜!
うーん……それ、難しいですね。たとえば『癒される音』でいうと、日本人は”秋の虫の音”をがあるでしょう。
でも、ヨーロッパの人にとって虫の音は嫌な音で、決して癒される音ではない。あっちだと、癒される音の代表格は”暖炉の音”。寒さから身を守れるといった、安心安全の象徴なのかなと思うんですけども。
つまり、聴く人が育ってきた環境や文化、歴史も関係してきているので……
そうですね。僕はいろんな音を探しに海外に行くことも多いんですが、今までで1番いいなと思ったのは、ベトナムのリゾート地にある、とあるレストランの音環境デザインですね。
リゾートにあるレストランって、普通なら南国っぽい音楽が流れてると思うんですけど。そのレストランは海辺に面していて、BGMは本物の波の音、それだけなんです。録音された波音がスピーカーから流れてくるのとは全然違いますね。
いつ行っても、どこに座っても、不思議と波の音が心地良い音量で流れているんですよ。周辺にある自然の音をうまく生かしながらデザインされている。『なんでもかんでも足せばいい』ってわけじゃない解釈は、本当にかっこいいなと思いましたね。
たとえば、JRの発車メロディ。ドアが閉まるときって、昔はブザーがブーって鳴っていただけだったのに、今はさまざまな音楽が流れてますよね。
たとえば、高田馬場だと”鉄腕アトム”の主題歌が流れる。この音楽で高田馬場を連想させるのはわかるけど、『本当に電車が発車する時にこの音楽でいいのか』という疑問があって。
ブザーから音楽になった経過としては、『ブザー音が人工的で冷たいから、自死増加に繋がるかも』とかいう研究もあったそうなんですが……だからといって、『高田馬場は鉄腕アトム発祥の地です』というアイデンティティとしての音にするなら、発車音ではなく、別の使い方をするべきじゃないかと思うんです。
そういうふうに、よっぽど考えて答えをださないといけないくらい社会的に責任がある音も、日本はなんだか詰めが甘いような印象がある。
大きな夢ですが、音が氾濫しまくる日本だからこそ、音の環境を徹底的に大事にした街を手がけてみたいです。
たとえば今、電気自動車は静かになりすぎていて、事故を防ぐために『わざと音を出さないといけない』時代になっている。でもそこで『わざと音を出す』方法を選ぶのではなく、音環境デザイナーとして『街づくりからどうあるべきか』を、音と都市の関係性から考え直すことができればなと。
もし実現できれば、結果として非常に心地よい都市の在り方になるんじゃないかと思っています。
優しい人がめっちゃ計算して作ってる音だった
というわけで、緊急地震速報の裏話を色々聞いてきました。
いやぁ、予想はしてましたが、やっぱり人の命を救うために計算し尽くされた音だったんですね……!
しかし、製作者である小久保さん、インタビュー中も何から何まで本当に丁寧に答えてくださって、とても親切な方でした。それを知ることができただけでもよかった!
次に緊急地震速報を聞くときは、小久保さんの顔が脳裏に浮かんで、パニックにならず行動できるような気がします……!
いや、もう鳴ることがないのがベストですよね。本当に。
社領エミでした。
企画・編集:人間編集部
楽音、スウィープ音…
違いを知りませんでした、参考にさせて頂きます。
もう少し優しい音でも…と思っていましたが
これだけの思いと計算で作られてた音なんですね。
ただただ感心しました。
私は音でパニックというよりも、どう動いていいか分からないというのでパニックになるので、
災害対策は普段からしておいた方がいいですね~。
確かにあの音、怖いですよね〜
そこここで一斉に鳴りますもん。
でも、これ聞いてなるほどって思えて、また、鳴ったら、びっくりすると思うけど、深呼吸して、すばやく行動にうつせたらいいですよね。
思考チェンジの為のあの音なんですね!
でも実際は聴こえたらすぐ行動!より、数秒固まってしまうことのほうが多いです(汗)
次からは聴こえたらすぐ行動!と思って生活します。
島根や和歌山での地震の時も緊急速報が鳴ったり、年一回訓練でなるので自分の中では大して緊急性は高くない音です
何パターンか用意してあって半径何キロ以内の緊急速報と以上の緊急速報が別れていればもっと緊急度の割合が明確になったかも
大阪環状線や一部私鉄も駅ごとに発車音が変わりましたが、通勤通学観光客含めて全く気づいてない人が多々居ます
小久保さんが言われるとおり本当にそのタイミングで鳴らすべきなのか?と再確認してほしいですね