【取材あり】チャット代わりに電報を送り合ったらどんな気持ちになるのか
インターネットが大好きで、Web記事を書くことがどうしてもやめられない指圧師です。「下北沢ふしぎ指圧」を運営中。
こんにちは。ライターの斎藤充博です。
mineoがなかったころからある通信手段「電報」。みなさんは使ったことがありますか? 僕は一回もありません。
電報とは、このように文字を早く送るサービス。昔は緊急で要件を伝えなくてはいけないときに使われていました。でも、イラストを見て「別に早くないよね……?」と思った人は正解です。今ではインターネットを使えば、ずっと早く文字を送ることができますからね。
今日僕が来ているのは、ALSOKさん。ユニークなCMでおなじみの警備会社です。
実はALSOKは、8年前に「ALSOK電報」というサービスを始めています。インターネットがすっかり普及していた2010年になぜ? それもなぜ警備会社が?
電報サービスを担当する阿部賀一さんと村上諒子さんに聞いてみました!
斎藤
なぜ電報サービスを始めたのでしょうか? 警備会社ですよね?
阿部
おっしゃるとおり、我々は警備会社です。ただ、「警備だけではなく、新しいサービスをやってみたい」という機運が社内で高まっていたんです。
斎藤
新規事業開発の一環だったんですね。
阿部
そこで「我々がすでに持っている物は何か?」を洗い出してみたんです。私たちが持っている事業所は全国に354カ所。ガードマンの待機所は約2400カ所にもなります。そして、事業所にはプリンターとパソコンがあり、待機所には24時間いつでも動けるガードマンがいる。これらの場所で電報を印刷して、お届けできるんじゃないか、と。
斎藤
なるほど! 電報は全国展開している警備会社だからこそできる事業だったんですね。すると、電報を届けてくれるのは、ALSOKのガードマンなんですか?
阿部
それは状況によりますね。ガードマンが行くこともありますし、事務員や営業員が行くこともありますね。
斎藤
「ガードマンだ!」と思ったら電報を届けに来てくれたってなるの、なんかおもしろいですね……。
阿部
2003年に法律が改正されて、いろいろな民間事業者が電報サービスに参入できるようになりました。しかし、我々のような「警備会社」が電報を管理して届けることにより、よりお客様が安心していただけるのではないか、と思っております。
斎藤
なるほど……。確かにそれはそうですね。
阿部
ちなみに、私も実際に電報を届けたことがありますよ。
斎藤
普段の仕事とは、全然関係ないですよね。初めて電報を持っていく時、緊張しませんでしたか?
阿部
電報を間違ったところに届けてしまうのは、絶対にダメなんです。法律で「通信の秘密」が定められているのですが、それに抵触してしまうことにもなりかねません。なので、我々は「初めて」のときだけではなくて、いつも緊張感を持って届けています。
斎藤
ちなみに、話せる範囲での失敗ってありますか?
阿部
失敗と言っていいのかわかりませんが……。葬儀場へ電報を届ける依頼が入りました。そのころ私は営業員で、ピンクのネクタイをしていたんですよ。会社を出たはいいんですが、行く途中で「これはまずい」と気づきまして……。かといって黒いネクタイをして行くのも何か違う。悩んだ末にネクタイを外して電報をお届けしました。
斎藤
意外なところで気を遣いますね。ノーネクタイで行くの、きっと正解なんじゃないかなあ……。お通夜のマナーで「喪服で行かない」ってありますよね。黒いネクタイつけたら、やっぱりよくなさそう。
巾着袋になる電報、花びらに印刷できる電報
斎藤
現状、昔のように「レンラクコウ」とか「チチキトク」みたいに緊急の要件を伝えるケースってほとんどないですよね?
阿部
はい。電報と言えば「レンラクコウ」のように定番のフレーズがありますが、それはみんなが電話を持っていない時代に使われたものですね。
斎藤
すると、やっぱり今の電報の用途としては、結婚式やお葬式が多いんでしょうか。
阿部
そうですね。少し変わったところでは「昇進祝い」がありますね。企業から企業へ、代表取締役就任お祝いを送る、といったように。
斎藤
単なる連絡事項じゃなくて、「気持ち」を伝える時に使うわけですね。
村上
せっかくなので電報のサンプルをお見せしましょうか。
斎藤
なにか変わった種類がありますね?
阿部
刺繍がされている電報ですね。ちょっと手にとってもらっていいですか?
斎藤
刺繍の部分が外れた……。
斎藤
巾着袋になった。
村上
送った後もお使いいただけるようになっています。
斎藤
なるほど……。こういうのは実際に物をやりとりするからできることですね。メールじゃこうはいかない。
村上
そうですね。実際の物が介在することで「温かみ」が伝われば、と思っております。
村上
他にプリザーブドフラワー(生花を加工して長持ちするようにしたもの)を電報と一緒に送れるサービスもあります。
斎藤
すごいゴージャス。
阿部
ちなみに、これは花びらに印刷ができるんですよ。
斎藤
本当だ! 花に何かを印刷しようなんて、今まで考えたことなかった……。
阿部
「花束に名札をつける」ケースはよくあるんです。ところが、会社によっては名札を抜かれて、どこから贈られてきたのかわからないようになってしまうことがあるんですよ。
斎藤
ああ、なるほど。取引先を隠しておきたい企業もあるのでしょうね。
阿部
花に直接印刷してしまえば、名札のように抜かれることもありません。
斎藤
すごい発想ですね……。こちらはロゴだけでなく、どんな画像でも印刷できるんですか?
阿部
画像データを送ってもらえれば、できますね。ただご覧のように小さくしか印刷できません。
斎藤
これはいろいろおもしろいことができそうですね。
斎藤
ふと思ったんですが、電報を「お祝いでもお葬式でもない、ごくごく個人的なこと」に使うのはアリですか? サービスを提供している側からすると、ちょっと嫌ですかね?
阿部
いえ。電報に書かれるのは、どんな内容でもまったくかまいませんよ。それは我々が関知することではありません。
斎藤
たとえば、友だちとの雑談に使ってみても……?
阿部
全く問題ありません。ぜひ使ってみてください!
斎藤
いいんだ……。
阿部さん、村上さん、ありがとうございました!
ALSOKさんに話を聞いていて、やってみたいことができました。それは「電報をチャットのメッセージのように使ってみる」ということ。
村上さんも言ったように、電報で送れるのは文字だけではありません。物が届くことで、ある種の「温かみ」のような物も伝えられるわけです。
僕が電報を打ってみたいのは、この連載の担当編集をしてくれている、宇内一童さん。これまでに、いろいろな記事を一緒に作ってきました。彼は「ノオト」という編集プロダクションに勤めているので、会社に電報を送ってみましょう。
宇内さんとはいつも、チャットツール上で殺伐とした会話をしています。仕事ですからね……。電報を使ったら、ちょっと優しくなれるかな?
仲良しっぽいイメージで送ってみます。イメージは「連絡をずっと取っていなかった学生時代の友人」。これを「ALSOK電報」のWebサイトの案内にしたがって送信します。料金は1,030円。これが一番安いです。12時までの受付なら、なんと当日に届けてくれます。すごいなー。
翌日、さっそく宇内さんに電報が届いたようです。本当にALSOKのガードマンが来てくれたそうで……。
それは、なにやら重要な書類の受け渡しのようだったことでしょう。
でも届けられたのは、かわいい起き上がりこぼしの台紙を使った電報。
そして、中身はこれ。「さいきん元気してる?」
宇内
たった一言のために、こんな贅沢な紙が使われていて、そのギャップに笑ってしまった。余白のたっぷり感よ……。
こんな風になるんですね。確かに余白広いな。チャットツールにはないおかしみ……。
翌日、宇内さんからの返信が来ました。チャットのメッセージなら一瞬で来るし、郵便だったらもっと時間がかかったでしょうね。
「急にどうしたの?」
なんなんだこの余白は……。宇内さんと同じ感想です。人は自分に届けられた電報に余白が多いと笑ってしまうことがわかりました。
なんて返そうかな。前回電報を送ったときに気づいたのですが、ALSOKの電報サービスは、ある程度長い文章も送ることができます(全角300文字まで)。日頃ちょっと言いにくいことでも送ってみようか。
宇内さんの元に届けられた僕の電報はこちら。
どうしたってわけじゃないけどさ。たまにはこんなのもいいかなと思って。
言いたいのは、「いつも感謝しているよ」ってこと。
編集者としていろいろアドバイスしてもらって、時にはダメ出しもある。
僕もその場では反発するけど、すこし時間おいてみれば
「これでよかったんだ」って思うことばっかりだ。改めていつもありがとう。
普通に言えなくてゴメンな。
この電報で花も一緒に贈ります。気に入ってもらえるといいんだけど。
僕が電報と一緒に贈ったのは……
プリザーブドフラワーです。料金は電報と合わせて23,328円。
ALSOKさんをインタビューをした時は「花びらに社用ロゴ」を印刷したものを見せてもらいました。でも僕にロゴはないので、顔写真を印刷しています。なお、僕のポーズは花びらをイメージしています。
宇内
花をもらうことがほとんどないのでうれしかった反面、同僚から「どうしたの?」「誰から?」と聞かれて説明に困りました。メガネがズレているのは狙いでしょうか?
うれしかったのならよかったです。ちなみにメガネがずれているのはたまたま。せっかく花に印刷する以上、直してから写真撮ればよかった……。
そしてまた宇内さんからの返信が来ました。
なに言ってんのさ。
充博は書くのが早くて締切をしっかり守るし、イラスト入りの楽しい原稿に仕上げてくれる。俺だっていつも感謝しているよ。
1つのいいもの作り上げていくために、2人で意見をぶつけ合う。
俺らがそういう関係でいられるのも、充博の人柄のよさがあってこそ。
素敵なお花をありがとう。かわいい笑顔だったよ。メガネが本当に似合うんだね。
……宇内さんから「充博」と下の名前で呼ばれたことはただの一度もありません。電報を使って急速に距離を縮めてきました。こういうのもアリか。
それにしても「かわいい笑顔」とは? 本当にそんなこと思っているんでしょうか? ううむ……。だけど、悪くないな。
バカ! かわいいとか、やめろっての!
おれが原稿を早めに出せるのは、編集がちゃんとチェックしてくれる安心感があるからかな。
なんだかんだいって、うまく仕事をやれてるのかもしれない。おれたち。
突然ごめんな! またよろしく!
僕からの返信がこちら。デレデレの文章になってしまいました……。僕はいつからこんな人間になったんだろう?
宇内
若干、気味の悪さも感じましたが、もちろん感謝されて悪い気持ちはしません。全体を通して「普段からもっと、感謝の気持ちを言葉や文字で伝えていかないとな」と、考えるきっかけになりました。
電報なら普段言えないことが伝えられる!?
これで電報のやりとりは終わりです。「気味が悪い」と言われてしまいましたが、仕方がない。やっぱりデレデレしすぎの文面だったか。
チャットツール上のメッセージでは、絶対にこんなこと書きません。実際に会っても言わない。だけど、やって良かったと思います。自分の中の深いところにある気持ちを、電報が引き出してくれた。
みなさんもたまには電報を使ってみると、おもしろいと思います。ただ、花に自分の顔を印刷するのはちょっとやり過ぎだったかも。2万超えちゃってたし!
<取材協力>
ALSOK電報
(編集:ノオト)
「返品だったのに、分かりやすく丁寧な説明をありがとうございました。」
と一筆つけて返品したところ、
上司の目にそれが止まり、今までこんなものをもらったことが無かったと、
その店員さん昇進することになりまして、
昇進についてお礼の連絡をいただいたことがありました。
感謝を伝えるのっていいなぁ、とそれ以後色んなお店さんでいいことあったら
ありがとうを伝えるようになりました。
向こうもこっちも気持ちいい関係っていいですよねぇ(・ω・)
表面では見えない、あったかい内面が電報というツールで伝わったのですね。
微笑ましい。
いや、ちょっとニヤニヤしちゃう
私は素直じゃないので、身近な人にそ日頃の感謝って伝えにくいんですが、何かの折に電報を利用してみるのも手かもな…と思いました(*´ー`*)