名称未設定-1.png

  • コミュニケーション

「ネタだけで相手の心理状態がわかる」 伝説のハガキ職人・せきしろに聞く、文字によるコミュニケーション

井上マサキ

ライター:井上マサキ

ライター&路線図研究家。宮城県生まれの二児の父。好きな路線図はロンドンと横浜市営地下鉄。

  • はてなブックマークに追加

皆さんは普段、メールやSNSなどの「文字のコミュニケーション」において、難しいと感じたことはないでしょうか? 丁寧な文章にしているつもりでも、そっけない印象を持たれたり、対面して初めて「メールと違い、気さくな人ですね」と言われてしまったり……。相手の表情や姿が見えないだけに、文字だけで意図するニュアンスをすべて伝えるのは無謀なのかもしれません。

相手が何を伝えようとし、どんな返事を求めているのか。その極意は、ラジオのハガキ職人から学べるのではないでしょうか。パーソナリティの個性を汲み取り、コーナーで求められるものが何なのか察知して、それにハマるネタを提供する……毎回のようにネタが採用される常連のハガキ職人ほど、文字のコミュニケーションにおいて、高度なスキルを持っているはず。

元ハガキ職人であり、現在では放送作家や脚本家などマルチに活躍するせきしろさんに、「ハガキを投稿する側」「ハガキを採用する側」それぞれの立場から、ハガキ職人のコミュニケーションについて聞きました。

せきしろ
1970年北海道生まれ。文筆家。主な著書に『去年ルノアールで』『不戦勝』(共にマガジンハウス)、『逡巡』(新潮社)、『海辺の週刊大衆』(双葉社)、『たとえる技術』(文響社)などがある。昨年、半自伝的小説『1990年、何も無いと思っていた私にハガキがあった』を上梓。

「相手がどう読むのか」まで考えてハガキを書く

——せきしろさんがラジオを聴き始めたのはいつごろでしょうか?

小学4年生か5年生の頃、授業でラジオを作ったのがきっかけですね。中学校に入ってからは、ラジカセを親に買ってもらいました。『中島みゆきのオールナイトニッポン』とか、ニッポン放送のオールナイトニッポン(※)をひと通り聴いたのを覚えています。地元が北海道なんですが、当時はTBSとか他の局の電波が入らなくて。

※オールナイトニッポン…AMラジオ放送局であるニッポン放送の深夜番組枠。パーソナリティの名前を冠して『○○のオールナイトニッポン』という番組名がつけられる

——では、投稿を始めたのも、その頃でしょうか。

高校を卒業して、上京してからですね。初めて採用されたのは、『とんねるずのオールナイトニッポン』だったと思います。最初は軽い気持ちで送ったんですけど……やっぱり一度読まれると、「次も」ってなりますよね。

——ハガキを投稿する量は、かなり多かったんですか?

いえ、枚数は多くないです。1コーナーにつきハガキ1枚ぐらいで、1枚の中にネタを何個か書いていたと思います。

——そうなんですね! ハガキ職人って何枚も何枚もハガキを書くイメージでした。

ハガキに書くネタは、厳選していました。思いついたネタを一度書き出して、「これは、誰かとかぶるな」と思ったものは捨てていましたね。あと、ハガキの一番上に書くネタを大事にしていました。最初に読まれるネタなので、そのネタだけでつまらないと思われて、弾かれないように。

——「相手がどう読むのか」「読んでどう感じるか」まで考えてハガキを書いていたんですね。

そうですね。改行の位置や、漢字にするかひらがなにするかなど、放送でこちらの意図通りに読まれるよう意識していました。ラジオ番組だけでなく、雑誌にも投稿していたのですが、送ったハガキの裏面がそのまま掲載されることもあるので、レイアウトに気をつけましたね。

——雑誌はハガキを出してから載るまで時間がかかりますが、いつの号に掲載されるか気になりますか?

気になります。「いつ頃投函したハガキがどの号に載るか」は知りたいですね。締め切りがわかれば、いつまでにネタを考えればいいかというペースの配分がつかめるんです。あと、お盆や年末は編集部が休みなので、その前に届くように計算していました。

——スケジュール管理は大切ですね。

大事です。ラジオも放送日から逆算して自分なりの「締め切り日」を作っていました。正月などは生放送ではなく、録音になる番組も多いので、通常より早く投稿していましたし。

——ちなみに、懸賞ハガキでは「色をつけて目立たせると当選しやすい!」といったテクニックがよく言われていますが、ハガキ職人の場合、採用されやすくなるためにハガキを工夫することはあるのでしょうか?

うーん……僕は色をつけなかったですし、ハガキに何か工夫を施した人を見たこともないです。美意識の問題かもしれません。「ネタのおもしろさではなく、そうしたテクニックで読まれても……」という。

——たしかに、基本はおもしろさの勝負ですもんね。

社会との接点はラジオしかなかった

——いわゆる「常連」になっても、読まれる瞬間はうれしいものですか。

喜ぶというより、安堵ですね。もう毎週読まれることが、前提になっているんですよ。読まれないときは郵便事故を疑うこともありました。信じられなくなるんですよ、郵便局が。

——届いてないんじゃないかと思ってしまうんですね。

ポストからラジオ局までの経路をなるべく短くしようと思って、ニッポン放送がある有楽町のポストまで足を運んで投函していましたから。自意識が本当にこじれちゃうと、「今週読まれたネタ、全部俺が頭で考えていたやつだからな」と思うところまでいきますし……。

——せきしろさんがハガキを出していた頃は、ハガキ職人同士のつながりはあったんですか?

ほぼ無かったです。放送を聴いて「あの人、また読まれたな」「最近あの人のネタ聴かないな」と思うくらいで。当時は自分がハガキ職人だと言うのが恥ずかしかったんですよね。自分の中にあるオタク的な要素を「隠す美学」がありましたから。

——誰かに打ち明けるとしても、ラジオネームが下ネタだったりすることもありますからね。ちなみに、せきしろさんはどんなラジオネームを……?

絶対言わないです(笑)。上京して知り合いもいないので、あの頃は社会との接点がラジオしかなかったんですよ。ハガキを出すことだけが外部とのコミュニケーションで、読まれることで世間とつながっていると感じていました。今のハガキ職人にも、そういう子が何人もいると思います。

——そういえば、ハガキ職人について書かれたこちらの本の表紙、せきしろさん自身が撮られたんですよね。深夜ラジオを聴き終わったあとの朝焼けと聞きました。

そうです。オールナイトニッポンの2部が終わった後の、早朝5時頃の光景です。だから、読まれないともう、孤独ですよね。

せきしろ『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)。深夜ラジオへの投稿だけが社会の接点である「ハガキ職人」を主人公にした、半自伝的小説。

「おもしろい人」ほど苦労 ハガキ職人から構成作家になる際の変化

——常連になると、構成作家やお笑いの仕事につながることもありますよね。せきしろさんは、ハガキ職人の“その後”を意識していましたか?

僕は、ネタが読まれる状態がずっと続けばいいだけでしたね(笑)。当時は構成作家になる方法もあいまいだったんですよ。ビートたけしさんの出待ちをするとか、そういうのしかなくて。

——現在は、実際に構成作家にスカウトされるハガキ職人の方も結構いますよね。

でも、ハガキ職人出身の構成作家で、成功した人って……ほぼいないと思うんですよ。

——え! そうなんですか!?

構成作家はハガキ職人と違って、「おもしろいことだけ考えていればいい」というわけじゃないんですね。僕も最初は、某ラジオ番組の構成作家として入れてもらいましたが、何にもできないんですよ。構成作家は会議に出たり、雑用を頼まれたり、他人と接っする必要がある。でも僕の場合、ラジオブースで、笑い声を上げるのもうまくできなくて。

——今までの「書く」コミュニケーションから、「しゃべる」コミュニケーションに、ステージが変わっちゃうと……。

僕は全然できなかったですね。今ではそういう子の面倒をみるようにしていますが、ある意味おもしろいだけの子ほど苦労しています。そのまま挫折してやめちゃうこともありますし、難しいですね。

——おもしろいことをじっくり考えるのと、瞬発的にしゃべるのって、全然違いますもんね……。「おもしろさ」にパラメータの全部を振り分けて、別のことができないということでしょうか。

ハガキ職人の頃はよくても、問題はその後ですよね。物語が進んだ後に……。

——このパラメータでは、ボスが倒せないと。

装備も限られますからね。

ネタには「パーソナルな部分」を入れてほしい

——現在、せきしろさんは構成作家として、投稿ネタを選ぶ立場です。投稿の方法が、ハガキからメールになって、変わったと感じることはありますか?

メールだとリアルタイムに大量に送れるので、ネタのかぶりや改行の位置など、細かいところを気にする人はほとんどいないと思います。並行していろいろな番組に投稿したり、ブログやSNSで「採用された投稿」「ボツになった投稿」を発表したり、昔みたいに「パーソナリティと自分だけ」という狭い関係性じゃなくなっている。

——SNSでハガキ職人同士の繋がりもありますしね。

そうですね。あと、投稿コーナーの傾向も変わりました。昔は、それまでの流れとかパーソナリティにいじられるスタッフとか、何カ月間か番組を聴いて理解しないとネタが書けないコーナーがあったものです。でも最近は、大喜利っぽいコーナーのほうが多いですね。新規リスナーが投稿しやすく、参加人数も多くなりますから。

——選ぶ側としては、常連と新規リスナーのバランスも考えますか。

考えますね。常連ばかりになると、それ以外の人が出さなくなるので、なるべくいろんな人を採用しよう、と意識しています。1回読まれれば、次も出してくれるでしょうし。ただ、昔ハガキを出していた身としては、常連も気になるんですよ……。ネタを見ると、投稿者がどんな心理状態なのか、割とわかっちゃうんで。

——例えばどういう……?

「ひとりよがりになっているな」とか「この単語だけで勝負したいんだろうな」とか。こいつは本筋と外れたことをやりはじめたけど、この方向だと広がらないだろうなとか。「先週出せなくてすみません」みたいなメッセージが書かれていることもありますね。毎週出すことは、決して義務ではないのですが……。かといって、こちらから常連に何かを伝える術はないんですよね。

——では、いまラジオ番組に投稿している人へ、「こうするといいぞ」とアドバイスするとしたら……?

難しいですけど……投稿するネタにパーソナルな部分を入れてほしいですね。大喜利だとしても、どこかで見たような答えを大量に出すよりも、回答を聞くだけで「あの人の答えだ」とわかるようなものを出すというか。その人なりの「個性」が入っていてほしいです。

——せきしろさんは、投稿されたネタのどんなところに個性を感じますか?

例えば映画にまつわるお題が出たとき、「なんでこのタイトルを使っているんだよ」というのがあるじゃないですか。時事ネタでも、旬のものじゃなくて、みんなが忘れているようなちょっとだけ昔の話を出すとか。選び方ひとつで人となりが見えるほうが、やっぱり好きですね。

普段のコミュニケーションで気をつけていることは?

——せきしろさんは普段SNSなどの文字を使ったコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

Twitterは、投稿前に一度奥さんに見せていますね……。

——NGが出ることも?

いやぁ結構NG出ますよ。お酒飲むとダメです(笑)。『キングオブコント』を見た後とか、あーだこーだ言いたくなるんですけど、それはダメと……。でも、そのおかげで、生き延びている気がします。

——企業の広報のようなチェック体制ですね。

ですね。あとは、誰も興味がなさそうなことしか言わないです。それを見た中学生ぐらいの子に、何かしら影響を与えられればいいなと思います。

——では、最近投稿した反町隆史さんとドーベルマンの話も……?

そうですね(笑)。中学生は、ちょっとしたことでも覚えてるじゃないですか。ずっと頭のどこかに残っていたらいいですよね。


大量に投稿されるネタに対し、パーソナリティが読み上げるのはごく一部のネタだけ。ハガキ職人とパーソナリティの間にあるコミュニケーションは、まるで「ときどき両思いのように感じる片思い」のよう。思いを確実に届けるためには、他の投稿者とは異なる「個性」と、個性を確実に伝える「表現」が必要です。

普段のコミュニケーションでも、「この表現で伝わるだろうか」「相手がどう読むだろうか」「自分の個性を入れてみよう」と意識すれば、思いをきちんと届けられるのかもしれませんね。


(編集:ノオト

続きを読むには、ログインまたはメンバー登録(無料)が必要です。

井上マサキ

ライター:井上マサキ

ライター&路線図研究家。宮城県生まれの二児の父。好きな路線図はロンドンと横浜市営地下鉄。

Banner mineo site 320x50

Banner support site 320x50


コメント 14

普段のコミュニケーションと繋がるかは置いといて面白い話が聞けて良かったです

コミュニケーションは聞く事を優先して相手をよく知ることから始めますよね。

言葉が多くなれば 思わぬ事で誤解が生じることが多くなります。

誤解が生じたら紙ではなくface to face です。

ありがとうございました。

ネタだけで…って、
寝たのなら何でも解るでしょ!

てな具合に…
タイトルで勘違いしますがな!
(^0^;)

私は車の中ではFMを聴くことが多いのですが、メール・ツイッターでメッセージテーマを受付してはるようです。一方、AMラジオ(ワイドFMでもAMラジオが聴けますが)はまだまだハガキ・FAXが生きています。

パーソナリティの方にメールorツイッターorハガキor FAXを読んでもらう工夫は、マイネ王では掲示板、ひいては「週間マイネ王」への掲載に通じますね。

まだまだ私の掲示板は拙い部分もありますが、より読めるような工夫と、惹きつけるようなタイトル付けをしていきたいです。

 南海ホークスの帽子。ここに目がいってしまいました。明るい緑の方が好きでしたけど。

面白い記事でしたが、大喜利やっているマイネオとしてどうとらえたかも聞きたいな。

自分が投稿した便りが読まれるというのは嬉しいものですよね。(^^

私も麻枝 准さんのネットラジオで、AKG K701というヘッドホンの話を投稿
して、一度だけ採用された事があるのですが、単に採用されただけでなく
麻枝さんも同じヘッドホンを購入されていた上にオススメのCDまで教えて
頂けてビックリしました。(^^ゞ

この時は、大変嬉しかったです。(^^

どうもこの方は私の恩師の息子さんである可能性が濃厚な気が…

たけしのオールナイトニッポンに何回か出したが採用されなかた(ToT)

思いに依る部分は伝達には欠かせないところですね。当方もマス媒体への接触はラジオに軸足を戻しております。電波で聞くのが理想なのですが、radikoが聴取の主な手段となっています。

退会済みメンバー
退会済みメンバー

すっごく共感しながら、あっという間に読んでしまいました。
ビジネスの側面では、どれだけ相手に気に入ってもらうきっかけを作っていくかや、なんとなくフィーリングが合うからとチャンスをもらえるようT.M.Revolution - Burnin' X'masじゃないけれど、「打算計算しつつ、距離詰める♪」ですから(^◇^;)

好きなことでも、無料サンプルが当たるといった懸賞でも、「私に当選させたらどんな将来性があるかどうか?」の文章は考えてますね。口コミで広げてくれるかどうか?等。深夜番組のタモリ倶楽部「空耳アワー」を見ていても、採用される人のネタってやっぱすごいなぁって思います。こういうオタ芸というか職人芸は豊かさ的にもけっこう大事だと思いますね。

「ひとりよがりになっているな」って
貴方の事じゃないですか!
気付かない?青い(若い)証拠で
大変残念です!

若いんですから
ちゃんと就職したほうが・・・・後悔しますよ!

言葉を文字にするのって難しいんですよネ!

退会済みメンバー
退会済みメンバー

>doraさん
そこまで言わなくても(^◇^;)
就職するだけが人生でないような気が…
自営業だってありだと思いますよ。

ラジオ番組ですから、他のリスナーにも共感できる内容で反響もあるような話題じゃないと採用しにくいんだと私は思います。

コメントするには、ログインまたはメンバー登録(無料)が必要です。