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知らない間に著作権を侵害しているかも? 弁護士に聞く「著作物」使用のルールと注意点
ライター/ウェブ編集。2001年からウェブコンテンツ業に企画・ディレクションとして携わる。2012年よりフリーライターに。女性向けコンテンツのほか、アプリ、旅行、生活、クルマ、働き方など様々な分野で執筆中。趣味は狛犬巡り。日本参道狛犬研究会会員。
SNSを見ていると、テレビ番組などの切り抜き動画が頻繁に流れてくるようになりました。また、有名な作品の画像を自身のアイコンとして使用している人も多く見かけます。
こういった行為を目にしたときに思うのが「著作権的に問題ないの?」という疑問。法律上ではどのような決まりになっているのでしょうか?
もしかすると、私たちも自覚がないまま他人の権利を侵害していたりするのかも? 老若男女がインターネットに触れる令和の今だからこそ、改めてきちんと把握しておきたい。
そこで今回は、恵美法律事務所の鈴木恵美弁護士に著作権について伺いました。
恵美法律事務所 鈴木恵美弁護士
弁護士。名古屋大学法科大学院実務法曹養成専攻修了(法務博士)。法律事務所所属を経て、恵美法律事務所を設立。さまざまな企業の法務顧問を務めながら、各種講演、知的財産権を中心に大学での講師、執筆活動、ゲーム制作などを手がけている。
HP:https://www.emisuzuki.net/
著作権が生まれるもと「著作物」とは
——さっそくですが、著作権とはいったい、どのような権利なのでしょうか?
鈴木弁護士
まずは、著作権のもととなる「著作物」から説明したほうが混乱がないと思います。著作権法の条文を見てみましょう。法律では、次のように定義されています。
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
著作権法|e-Gov法令検索(第2条1項1号)より引用
鈴木弁護士
簡単にまとめると、誰かが思想または感情を、①創作的に、②表現したら、著作物となります。①と②は、特にポイントとなります。
——そのくくりだと、TwitterやInstagramの投稿など、わりと何でも「著作物」になりそうですね。では逆に「著作物に当たらないもの」はありますか?
鈴木弁護士
著作権法の第10条で、著作物の例示と、著作物に該当しないものとがそれぞれ定められています。
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
著作権法|e-Gov法令検索(第10条)より引用
——著作物の例は具体的でわかりやすいのですが、著作物にあたらないものは難しいですね。2項の「事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道」は、なぜ著作物ではないのでしょうか?
鈴木弁護士
説明のため、語弊をおそれずに簡略化すると「著作物=①創作的+②表現(+α)」なので、①や②の要素(法律用語では、要件)を持たないものは、「著作物」といえません。「事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道」は、事実なので、誰が書いても同じになるはずで、①創作的、という要素を持たないですし、②表現でもない、といえます。
——なるほど!
著作者の権利の2つの柱「著作権」と「著作者人格権」
鈴木弁護士
著作物を作ったとき、まず手にするのは「著作者の権利」です。条文には次のように書かれています。
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作権法|e-Gov法令検索(第1条)より引用
鈴木弁護士
この「著作者の権利」の中に含まれているのが「著作権」と「著作者人格権」です。この2つが「著作者の権利」を成す大きな柱となります。
著作者の権利1「著作権」
鈴木弁護士
「著作権」は、さまざまな権利が詰まった花束だと思ってください。
——著作権は花束!? どういうことですか?
鈴木弁護士
著作権、という権利が1つあるというより、著作権として認められている権利は、実はこんなにたくさんあるんです!
著作権の中身一覧
著作権 | 著作物をコピー(印刷、録音、録画など)する権利 |
---|---|
上演権・演奏権・上映権 | 著作物を公に上演、演奏、上映する権利 |
公衆送信権 | 著作物を放送したりインターネットにアップロードしたりする権利 |
口述権 | 著作物を公に口述(朗読など)する権利 |
展示権 | 美術の著作物または未発行の写真の著作物を、原作品により公に展示する権利 |
頒布権 | 映画の著作物をその複製物により頒布(譲渡、貸与など)する権利 |
譲渡権 | 映画を除く著作物を原作品または複製物の譲渡により公衆に提供する権利 |
貸与権 | 映画を除く著作物を複製物の貸与により公衆に提供する権利 |
翻訳権・翻案権など | 著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、翻案する権利 |
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利 | 自分の著作物が原作品となる二次的著作物の著作者が有するものと同じ権利 |
——多い!
鈴木弁護士
著作物の使い方1つ1つに権利があるんですよ。その使い方の権利の集まりの総称が、「著作権」です。つまり著作者は、「著作権」の中に定められている方法で、独占して利用できる権利を持っているということになります。簡単に言うと、コピーしたり、上映したり、譲ったり、貸したり……といった権利の専有が認められているんです。だから、たとえば、ライセンスする、となれば、どの使い方をどんな風に許可するの?という話になるのですね。
——なるほど。これだけの権利があるので、著作権はいろんな花が束ねられた「権利の花束」なのですね。
著作者の権利2「著作者人格権」
——では、もう1つの柱「著作者人格権」とは何でしょうか?
鈴木弁護士
作品を作り出した人のこだわりは、誰にも奪われない権利として守られています。それこそが「著作者人格権」です。条文にはこう書かれています。
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。
著作権法|e-Gov法令検索(第59条)より引用
鈴木弁護士
著作権と著作者人格権は、著作者の権利を構成するものとして定義されています(著作権法第17条1項)。著作権は「財産権」だから、物と同じように他人へ譲渡したり、部分的に利用を認めたりできるんです。一方、著作者人格権は「著作者だけの権利」であり、著作者人格権として認められている次の権利については、他に譲渡することができないようになっています。
著作者人格権の中身一覧
公表権 | 自分の著作物を公表するか、あるいは公表しないかを決められる権利 |
---|---|
氏名表示権 | 自分の作品に、自分の名前(ペンネームを含む)を付記してほしい、あるいは、してほしくないと言える権利 |
同一性保持権 | 自分の著作物を、自分の意に反して無断で改変されない権利 |
——なるほど。さまざまな権利が詰まった花束(著作権)、誰にも譲れない著作者の人格(人格権)、この2つを合わせたものが「著作者の権利」なのですね。
では、何をしたら著作権侵害となるの?
——著作権と著作者人格権については理解できました。では、何をしたら著作権侵害になるのでしょうか?
鈴木弁護士
著作物を、著作権者の許諾を得ずに、著作権に該当する方法で利用したら、原則として、著作権の侵害になりえます。その際、著作者人格権の侵害にならないような配慮も必要です。
著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。
著作権法|e-Gov法令検索(113条11項)より引用
——著作がいっぱいで頭がこんがらがりそうですが、つまり、先ほど教わった「権利の花束」に該当する行為を、「無断」で行うとNGということですか?
鈴木弁護士
そうです。著作権として認められた内容を他人が無断で行えば侵害になりますが、著作権として定められていない使い方なら、著作権の侵害には当たりません。
——例えば、他人のブログの文章や画像をSNSなどに無断でコピペした場合、著作権の中のどの権利を侵害していることになりますか?
鈴木弁護士
SNSに載せるということは、簡単にいえば「インターネットを通じて送信している」ことになるので、公衆送信権の侵害です。厳密に言えば、複製権の侵害も伴っている場合が多いように思います。
——インターネット上にコピペした時点でNGということですよね。では例えば、スマホのメモアプリなどにコピペするのはOKですか?
鈴木弁護士
自分だけが見られるメモアプリであれば「私的利用のための複製」の扱いとなり、無断でコピペしても問題ない場合が多いと思います。著作権の条文には「権利制限規定」といって、著作者の許諾を得ずに利用できる例外についても書かれているんです。
——許諾を得ずに利用していいケースも、こんなにあるのですね!
引用と転載の違いは?
——「引用」も、権利制限規定の1つなのですね。
鈴木弁護士
はい。「引用」については、著作権法第32条で次のように定義されています。
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
著作権法|e-Gov法令検索(第32条)より引用
——「公正な慣行に合致」とは、どういう意味ですか?
鈴木弁護士
「公正な慣行に合致」の解釈については、いろいろな意見があるんです。法律がもっと一義的に明確に書いてくれたり、裁判所が「こうです!」って断言してくれたら楽なのに……と思ってしまいますよね。
——たしかに。
鈴木弁護士
でも、解釈の余地を残すことで、みなさんの利用の柔軟性を高めているともいえます。条文に書かれていない部分としては、基本的に、次のようなことが必要と考えられています。
- 引用の目的から、必要な範囲内であること
- 引用する側の著作物が主、引用される著作物が従となる「主従関係」があること
- 引用した部分が明確に分かれていること
- 引用元を明示すること
鈴木弁護士
外国では「100文字中、何文字までなら引用OK」といった規定を検討していたりもするようです。ただ、あまり縛りすぎると表現の自由が失われてしまうので、そこは少しゆるく書かれた日本の条文のいいところと捉えています。
——なるほど。日本の条文はわかりづらい反面、いいところもあるんですね。引用と混同しがちな言葉に「転載」がありますが、引用と何が違うのでしょうか?
鈴木弁護士
転載は引用と違い、まず対象となる著作物が限られています。著作権法第39条を見てみましょう。
新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、有線放送し、地域限定特定入力型自動公衆送信を行い、若しくは放送同時配信等を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
著作権法|e-Gov法令検索(第39条)より引用
——引用は「公表された著作物」が対象でしたが、転載は「新聞または雑誌に掲載して発行された政治上、経済上または社会上の時事問題に関する論説」が対象なのですね。
鈴木弁護士
はい。転載は「禁止の意思表示」ができるので、そこも引用と異なる部分です。
——クリエイターのブログやSNSアカウントなどで「無断転載禁止」と書かれてあるのをよく見かけますが、新聞でも雑誌でもないので、転載という表現は正しくないのでしょうか?
鈴木弁護士
条文で定められている意味での転載の対象ではないように思いますが、他人の著作物を例外的に許される場合を除いて許諾なしに使用すれば、やはり著作権の侵害になるのが原則です。「無断転載禁止」とみなさんが書いているのは、著作権を詳しく知らない人への注意喚起とみることもできるかもしれません。法律に定められた言葉で、かつ馴染みのある言葉は、何を指しているかが曖昧になりがちですが、注意喚起、著作(権)者の意向が伝わることが大切だと思います。
時代に合わせて変化していく著作権
——近年、インターネットでも著作権がらみの炎上を見かけることが増えたような気がしますが、実際、裁判は増えているのでしょうか?
鈴木弁護士
例えば漫画の違法アップロードをしているサイトを訴える場合、作品数でカウントするのか、サイトのデータベースでカウントするのかという違いもあり、訴訟(裁判)の件数が増えている、または減っていると一概には言いづらいのが現状です。また、訴訟に勝っても数十万円程の損害賠償額になるものもあり、訴訟費用や労力などを考慮して訴えまでは起こさないケースもあるんです。逆に、任意に交渉して和解するケースも多く、この場合は公表されないのがほとんどです。
——今後の著作権はどう変わっていくのでしょうか?
鈴木弁護士
今の条文は、インターネットが発展していくことを想定しきれていないものになっています。なので今後は、時代に合わせるために柔軟な改正が進められていくのではないでしょうか。
——最後に、著作権と向き合うコツがあれば教えてください。
鈴木弁護士
著作権を「怖い」と思われているのが、すごく切なくて! 著作権法の目的は、著作権者をガチガチに守るためではなく、文化の発展にあります。さきほど説明した権利制限規定のように、著作権者に許可をとらずに使える方法もありますし、著作権の保護期間が切れたものは自由に使うことができます。みなさんが、時代の変化とともに、ルールを守り育てながら著作物を生み出し利用し合うことで、文化の発展につながっていくとうれしいです。
◇
使い方やルールのデザインをきちんと明文化してくれている著作権法。法律=難しいと思い込まず、知ることで使う楽しみも増えそうだと感じました。鈴木先生、根気よく説明していただき、ありがとうございました!
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いつもありがとうございます。
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#マイネ王9周年おめでとう!
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