いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

迷宮最深部――封印室の扉が、軋んだ音を立てて開いた。

リオとユラは、慎重に足を踏み入れる。
中には、あのときと同じように、王家の宝箱が静かに鎮座していた。

だが、何かが違う。

「……蓋が、開いてる」

ルカの声が震える。
宝箱の中には、本来十数個あったはずの人工伝声石が――三つしか残っていなかった。

「盗まれた……?」

そう口にした瞬間、室内に低く響く音。
それはどこからともなく流れ出た、記録の断片だった。

「……記録……は、声だけでは足りない。真実を、見せろ……」

誰かの声。だが歪み、変質している。
それはまるで、怒りや憎しみが混ざったような、呪いにも似た響きだった。

「これは……人工伝声石の記録じゃない」

ユラが青ざめる。

「違う……これは、**改造された石の“声”**よ」

誰かが、封じられた人工伝声石を使い、記録を“武器”として変質させたのだ。

記録は力――だが、制御されない力は、災いになる。

そのとき、空中に揺らめく像が現れた。
それは封印されていた記録のひとつ――“戦争の光景”だった。

燃え上がる村、崩れゆく塔、叫び声とともに倒れる人々。
リオたちはその凄惨さに息を呑んだ。

「誰かがこれを……復元し、広めようとしているのか……?」

そう、声は記録。
記録は情報。
情報は、人を動かす力になる。

だからこそ、王は封印を選んだのだ。

けれど、真実は押し込められても、消え去ることはなかった。

ユラが震える手で、残された三つの石のひとつを取り上げた。

「まだ……残ってる。これだけは……守らなきゃ」

「遅いかもしれないけど、それでも――もう一度、“声”を正しく届けよう」

リオの瞳に、かつての火が戻る。

沈黙の時代は終わる。
再び、“記録”が世界を巡るときが来た。