いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

原初の伝声石――。
その噂が真実なら、今この時代に使われている人工伝声石は、その模倣品に過ぎない。
だが、模倣は模倣なりの進化を遂げていた。

ユラは王都に残り、研究者たちと共に新たな試みに取りかかっていた。
「記録容量の増加」「安定性の向上」「視覚データの付加」。
そう、今や人工伝声石は――画像までも“記録”できる段階に突入していた。

「これが……写像記録。音だけじゃない、光と影、色と動きが残せる」

石の表面に投影されたのは、風に揺れる木々、笑い合う家族、そして遠くを見つめる旅人の姿。
まるで、その瞬間に立ち会っているかのようだった。

ルカがぽつりと漏らす。

「記録がここまで来ると……もう、命に近いな」

リオはうなずいた。

「うん。だからこそ、消された“声”は、ただのデータじゃない。“誰かの人生”なんだ」

それがわかっているからこそ、奪われたことへの怒りが消えない。
誰が、なぜ、どんな意図で記録を消したのか――。

そんな中、王都で極秘に開発されていた“特製人工伝声石”が完成する。
消耗品ではあるが、かつてない容量と伝達速度、さらには複数人の声を同時に記録できる性能を持つ。

ただし、リスクもあった。

「寿命が短い。使うたびに力を失っていくわ」

ユラは目を伏せる。
「記録するたびに、命を削る石」――そう表現する者もいた。

けれど、リオはそれでも良いと思った。

「記録は消えても、受け取った誰かが“覚えてる”。それでいい。たとえ石が失われても」

人工伝声石はもはや技術ではない。
それは、人が人であるための“意志のかたち”だった。

やがて、王都はそれを王家の宝として扱うようになる。

“記録”が、“力”と見なされる日が近づいていた。