いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

それは、何の前触れもなく起きた。
王都から南に広がる三つの村で、すべての人工伝声石が一斉に“沈黙”した。
光を放つはずの石は色を失い、音の再生も停止した。

「……石が、壊れてる?」

ルカが唖然とつぶやいた。
だが、目に見える損傷はどこにもない。ただ、記録された“音”だけが完全に消え去っていた。

リオは唇を噛んだ。

「誰かが……意図的にやった」

ユラは静かにうなずいた。

「記録回路に干渉した痕がある。これは、“技術”を持つ者の手だわ。素人の破壊じゃない」

石が“壊された”のではない。“消された”のだ。
しかも、正確に、効率的に。

王都の記録局は即座に調査団を派遣した。だが、真相は掴めなかった。
犯人も、方法も、動機も不明――ただ、記録だけが消えていた。

「これって……封じ人の新しいやり方じゃないのか?」

ルカが不安げに言うと、ユラがふと低く答えた。

「あるいは……もっと近い存在かもしれない」

リオはその言葉に、胸の奥に重く沈んだ予感を覚えた。

王都では、この事件を“技術的故障”として処理した。
だが現場を知る者は、皆、それが故障などではないと理解していた。

数日後、リオたちは密かに一つの事実を掴んだ。

「人工伝声石を開発した初期の設計図が、王都の記録局から消えてる」

「まさか……内通者?」

「あるいは、最初から“誰か”に見られてたのかも」

そして、もう一つの噂が流れてきた。
――“原初の伝声石”が、王都地下に封印されているというものだ。

リオは目を見開いた。

「まさか……あの“伝説”は本当だったの?」

音を宿し、声を運び、記憶を残す“最初の石”。
すべての技術の源にして、最も深く封印された宝石。

それが、本当に存在するのなら――
なぜ今、その影が浮上してきたのか?

答えは、まだ沈黙の中にあった。