いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

南の村での出来事から数日後、リオたちは王都近くの大広原に足を運んだ。
そこでは、各地から旅人や技術者、伝え手たちが集まり、“声の市”と呼ばれる交流の場が開かれていた。

人工伝声石を手にした者たちは、録音された歌やメッセージ、詩、さらには物語まで披露し合い、それを複製して交換していた。
声が通貨のように扱われ、人と人とを繋いでいた。

「見て、リオ! この石、鳥の鳴き声を再現してる!」

ルカが子どものように目を輝かせる。

「それだけじゃないわ。これなんて、夜空の音を録ったって……ほら」

ユラが差し出した石から、風と虫の声、遠くで揺れる草のざわめきが流れる。

「……まるで、その場にいるみたいだ」

リオは目を閉じ、耳を澄ませた。
音はただの情報ではない。感情であり、記憶であり、存在の証だった。

そんな中、王都から派遣された記録士が彼女たちに声をかけてきた。

「人工伝声石の技術を、王都の記録局で正式に採用したい。すべての出来事を保存する国家の記録として」

思いがけぬ申し出に、リオは驚く。

「国家が……“声”を保管するの?」

「はい。王都が声を守る“拠点”になります」

その提案は魅力的だった。しかし同時に、危うさもあった。
“記録”が力となる世界。
それを管理する手が、正しくあってくれる保証はどこにもない。

リオは一晩考え、翌朝、こう答えた。

「私たちが広めたのは、“声を奪われない世界”です。保管ではなく、共有してください。誰もが等しく、記録に触れられるように」

記録士は少し黙ったのち、うなずいた。

「……わかりました。そうしましょう。あなたたちの意志に敬意を表します」

その日、声の市に集まった多くの人が、手と手を取り合った。
伝声石の技術は人々を繋ぎ、記録を希望に変えつつあった。

そして、リオは強く思った。

「声が繋がる限り、この世界は変えられる」