いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

静寂の村を後にしたリオたちは、広大な草原を越えて旅を続けていた。
だが、道中で出会った旅商人の一言が、彼らを緊張させた。

「最近、南の村で“声狩り”があったらしい」

「……声狩り?」

ルカが聞き返すと、商人は真剣な表情でうなずいた。

「人工伝声石を持っていた家々が襲撃され、中の記録も全て破壊されたそうだ。“声を持つ者”を狙った犯行らしい」

その言葉に、リオは胸を締めつけられる思いだった。

「また……封じ人の残党……?」

だが今回はただの思想ではなかった。
証拠も痕跡も一切残さず、まるで“記録されること”自体を否定するような手口だった。

リオたちは急ぎ南の村へ向かった。
村は不気味なほど静かで、家々の扉は固く閉ざされていた。
唯一開いていた広場には、割れた伝声石が並んでいた。まるで“見せしめ”のように。

「記録が……全部、壊されてる」

ルカが膝をつく。いくつかの石を拾い、再生を試みたが、すべて沈黙していた。
まるで“言葉そのもの”が奪われたかのように。

「この村で……何があったの?」

そこへ、一人の少女が現れた。
腰には布にくるまれた小さな石。
その表面は焦げていたが、まだ微かに力を感じた。

「これ、壊されたけど……お母さんの声が残ってるの」

少女は震える手で石を差し出す。リオは慎重に受け取り、修復を試みた。
数分後、かすれた女性の声が、石の中から静かに流れ出した。

「……あなたが泣かないように、何度でも話すからね……」

少女の目に涙が浮かぶ。

「ありがとう……ありがとう……」

リオはその手を包み込み、静かに語りかけた。

「言葉は、奪われても残る。心に届いていれば、消えたりしない」

その夜、村の人々は少しずつ家から出てきた。
誰も語らなかったが、彼らの目は語っていた――“伝えること”を、諦めてはいないと。