いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

村の鍛冶場は、夜通し火が絶えなかった。
若い職人たちが集まり、リオたちの人工伝声石を手に取り、慎重に分解し、観察し、再構築していた。

「音を石に記憶させるってのは、まるで魔法だな」

「でも、これ……形じゃなくて“響き”で決まる気がする」

「内部の空洞の深さかもしれない。もっと削ってみよう」

リオは彼らの議論を静かに聞いていた。ユラが小さく囁く。

「これは……かつて私たちがしていたことに似てる。みんなで考えて、みんなで形にする……“協同”ってやつ」

「それが一番強い魔法なんだね、きっと」

リオはふっと笑った。彼女の手元には、試作された三つの人工伝声石があった。どれも形や大きさが違い、それぞれの加工職人の工夫が詰まっていた。

「これ……どれも綺麗だな」

ルカが見比べながら言うと、村の子どもたちが近寄ってきた。

「これ、触ってもいい?」

「しゃべってみてもいい?」

リオは頷き、一つの石を子どもに渡した。

「“おはよう”って言ってごらん」

「おはよう!」

子どもが叫ぶと、石がかすかに光った。数秒後、小さな“おはよう”が、少し照れたような声で返ってきた。

「わあ! しゃべった!」

子どもたちは笑い出した。石を回しながら、いろんな言葉を試し始める。

「これは……」

リオは胸の奥が熱くなるのを感じた。

「これが、“声”の力だよ」

ユラもそっと応えた。

「私たちが作っていた伝声石も、最初はただの実験だった。でも、こんなふうに笑ってくれる人がいた。それが嬉しくて……私たちは進んだの」

夜が明ける頃、ルカが一つの石を手に取った。

「この石、ちょっと重いけど……感度が高い。声だけじゃなくて……足音まで拾ったぞ」

「えっ、本当?」

リオが急いで耳を当てた。確かに、録音されたのは声だけじゃなかった。

「じゃあ……“音”そのものを伝えることができるってこと?」

ユラの声が高ぶる。

「それなら、もっと……! 音楽だって、環境音だって!」

「可能性は無限だよ!」

リオの目が輝く。音を伝える石は、単なる通信手段を越え、新たな文化を運ぶ媒体になりつつあった。