いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

リオたちは記録の間を後にし、塔の裏手にある古い工房へと向かった。
ユラの記憶によれば、そこは伝声石の研究と整音を行っていた場所だったという。

「ここだ。まだ……形は残ってる」

崩れかけた扉を押し開けると、中には石粉と金属屑が散乱していた。中央の台には、錬成装置の名残が見える。半分は壊れ、動く気配もない。

「これ、使えるかな?」

ルカが道具袋から金属棒と火打石を取り出す。

「加工台としてはまだ使えそうだ。問題は……素材だな」

伝声石は、ただの宝石ではなかった。特殊な鉱石と古代の呪術的な技法を融合させて作られていた。

「完全な再現は無理。でも、“音を覚える石”を作れれば、そこから始められるはず」

リオが拾ってきた欠片を砕き、粉末状にする。ユラは記憶を手繰りながら、それに混ぜる薬品の調合を指示した。

「この比率で混ぜて、熱するの。すぐに色が変わるはず」

ルカが火を入れ、石粉を練り固めた皿を熱した。しばらくすると、淡い青光を放つ石の粒が現れた。

「……できた、のか?」

リオは試しに、自分の声を石に向かって話しかけた。

「私の声が、この中に残りますように」

そして耳を寄せる。何も聞こえない。だが、石の奥が微かに共鳴した。

「反応してる……!」

ユラが息をのむ。「まだ未熟だけど、確かに“声を捕える”構造が生まれてる」

ルカが腕を組んでうなる。

「これ……使い切りかもな。何度も録音できない」

「でも、最初の一歩だよ。私たちだけの“人工伝声石”」

リオは石をそっと手に包んだ。その重みは、希望だった。

「これをもっと洗練させて、もっと多くの人と使えるようにしよう」

「そのためには……村や街の人にも協力してもらわないとな」

ルカの言葉に、リオは力強くうなずいた。

「声を取り戻す旅は、ここからが本番だね」

塔の裏に差し込む夕日が、作り出したばかりの人工石に反射して、金色にきらめいた。