いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

リオは伝声石の欠片に耳を近づけた。
風の音とともに、かすかな囁きが聴こえる。言葉ではない。音の残滓のような、誰かの“記憶”。

「これ、再生できるのかな?」

「もしかしたら、私の力を通じて……」

ユラが静かに語りかけると、欠片が淡く光った。すると空気が震え、音が部屋全体に広がっていく。

《……この声が、誰かに届きますように……今、アウレルは……封じられようとしている……》

音声は断片的だった。けれど、そこに込められた想いは確かに生きていた。

「やっぱり……ここには記録が残ってる」

リオは目を見開いた。「この石たち、全部が誰かの声なんだ」

部屋の隅に、同じような石片が山のように積まれていた。どれも壊れてはいるが、微かな光を放っているものもあった。

「きっと、修復すれば……」

「でも技術は失われてる。おれたちにはできないだろ?」

ルカの言葉に、リオは首を振った。

「違う。たとえ昔と同じ方法が無理でも、今の私たちのやり方でできるはず。鍛冶職人だって、新しい道具を作るだろ?」

「……そうか、模倣から始めるってことか」

「伝声石を再現する。それが今、私たちにできること」

ユラが静かに言った。

「私が覚えている限りの知識を渡す。きっと、手がかりになる」

そのとき、塔の外からかすかな音が響いた。太鼓のような、地を叩く低い音。

「何か来る……?」

ルカが窓辺に近づくと、山の麓に煙が立っていた。

「封じ人か……もしくは、他の旅人?」

リオは立ち上がった。

「どっちにしても、ここに長くはいられない。でも……今、私たちは確かに“声”を拾った」

ルカは荷物を背負い直す。

「じゃあ、次はどうする?」

「記録の復元。私たちが使える“石”を作る。そしてもう一度、誰かとつながるために」

風が記録の間を吹き抜け、塔をくぐった声が空へと還っていった。