いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

塔の階段は、思った以上に崩れていた。石の隙間から光が漏れ、床板は幾度も抜けかけた。
それでもリオたちは慎重に、少しずつ上階へと進んだ。

「ここの最上階に“記録の間”があったんだよね?」

「うん……あのとき、私はこの場所で、最後の声を届けようとしていた」

ユラの声がどこか悲しげだった。
やがて、薄暗い通路を抜けた先に、開けた部屋が現れた。円形の大広間。天井は抜け、空が見える。風に舞うのは、劣化した紙片と割れた石の欠片。

「ここが……?」

「“記録の間”……でも、こんな……」

リオは、部屋の中央にある台座に近づいた。そこには、半ば埋もれるように、欠けた伝声石が残っていた。

そっと手を伸ばす。ユラの声が、石を通してかすかに震えた。

「……懐かしい……これは、私の“核”だった部分かも」

「記録って、どうやって残されていたの?」

「声を石に宿す方法は、古の技術だった。でももう……」

そのときだった。
台座の奥、床板がわずかに軋む。何かがいる。
リオとルカが身を引くと、壁の影から、一体の影が現れた。先ほどの封じ人とは異なる。布をまとい、人の形をしている。

「……来たのだな。“声”の継ぎ手よ」

低く響く声。封じ人の中でも、上位の存在のようだった。

「どうして、こんな場所を壊したの?」

リオが問うと、影は静かに答えた。

「言葉は力を与える。力は争いを生む。だから我らは、均衡を保つために声を封じた」

「それはただの支配だよ!」

ルカが叫ぶと、影の衣がゆらりと揺れる。

「お前たちが何を見つけようと、声の時代は戻らぬ。だが……試すがいい」

そう言うと、影はふっと消えた。空気だけが重く残る。

リオは再び、石の欠片に手を添えた。

「わたし、あきらめないよ。ここから始める。もう一度、“声”の力を取り戻す」

空が広がる廃墟の中心で、希望だけが確かに残っていた。