いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

アウレルの外郭にたどり着いたのは、山を越えてさらに五日後のことだった。
かつての都の姿は失われ、崩れかけた門と苔むした石造りの建物が沈黙の中にあった。だが、リオには感じられた。ここに、かつて“声”があったと。

「ここが記憶の都……?」

ルカが息を呑む。中央にそびえるのは、高く傷んだ石の塔。
ユラがかすかに答えた。

「記憶の塔。伝声石が集められていた場所……わたしも、ここで“最後の声”を……」

リオは黙って、割れた石片を拾った。伝声石の残骸。もう声は宿っていないが、その静けさが声の痕跡を証明しているようだった。

「中に入ってみよう。何か、思い出せるかも」

塔の中は薄暗く、螺旋階段が上へと続いていた。壁にはかつての文字が、かすかに刻まれている。

「“記録の間”が最上階にあった。そこに……何かが……」

ユラの声が震えた。そのとき、塔がきしむような音を立てた。

「誰か……いる?」

リオとルカは身構えた。風ではない。確かな気配がある。
階段の上から黒い影が滑るように降りてきた。人とも獣ともつかぬ姿。その中心には、ぽっかりと空いた“空洞”があった。

「封じ人……!」

ユラが叫ぶ。「その中に、奪われた“声”が閉じ込められてる!」

リオは恐れず、伝声石を掲げた。

「これは、誰かの想い。誰かの叫び。黙らせるなんてさせない!」

黒い影がわずかにたじろいだ。その瞬間、ルカが閃光玉を投げつける。爆ぜた光と音に、影は悲鳴のような風を残して逃げていった。

「消えた……か?」

リオは胸に手を当てて息を整える。

「でも、まだ終わってない。塔の最上階に行かなきゃ」

「だったら、行こうぜ。全部取り戻すためにさ」

リオはうなずき、再び階段を登りはじめた。