いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

火事から三日後、村の復旧は一応の区切りを迎えた。焦げた倉庫の瓦礫は片づけられ、焼けた畑にも灰が撒かれた。けれど、村人たちの目には以前の安穏さはなかった。誰もが、目に見えぬ“敵”の存在を意識し始めていた。

「これ以上、村にいたらユラもみんなも危ない」

リオの決意は固まっていた。彼女は石を胸に抱えながら、ルカとともに長老ハルのもとを訪れた。

「……村を出たい。伝声石のことをもっと知りたい。ユラが何者なのか、封じ人が何を恐れているのか。外の世界で探してくる」

ハルは黙ってリオを見つめていた。だが、やがて重くうなずく。

「おぬしの中にある“知りたい”という想い。それが、封じ人の恐れる力じゃ。行け、リオ。だが気をつけよ。言葉は時に刃となる。真実もまた、争いを呼ぶ」

ルカもまた荷物をまとめていた。剣ではなく、工具を、火打石を、そして携帯用の鍛冶道具を。彼にとって“戦う”とは、叩いて形を生むことだった。

「お前を一人にすると思ったか? 旅の途中で道具が壊れたら誰が直すんだよ」

リオは小さく笑った。「ありがとう、ルカ」

そして、旅立ちの朝。村の皆が見送りに集まった。かつての静かな日常では考えられなかった光景だった。だが今、リオとルカに託されたのは、村の未来でもあった。

ユラの声が静かに響く。

「東の山脈を越えた先……“記憶の都”がある。かつて情報が交わされた場所。そこに行けば、わたしがどうしてここにいるのか、思い出せるかもしれない……」

「記憶の都……?」

「声が集まる場所。伝声石が、かつて保管されていた中央の塔がある。今は廃墟かもしれないけど……きっと何かが残ってる」

リオは石を胸元にしまい、まっすぐ前を向いた。

「行こう、ユラ。すべてを思い出して、取り戻そう。言葉の力を、世界をつなぐ声を」

「……ありがとう。忘れられていた“わたし”が、こうして誰かと歩けるなんて、思わなかった」

旅は始まった。

道は未だ不確かで、敵の影は遠く、そして近い。
だが、彼女たちには希望があった。
その名は——“声”。
世界を動かす、かつての力。