いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

翌朝、リオは広場の隅でルカと顔を合わせた。彼は村一番の鍛冶職人の息子で、何かと世話を焼きたがる性格だった。リオが手帳に夢中になっているのを見て、興味を示す。

「また日記か? 最近、ずっと何か書いてるよな」

「……声を記録してるの。伝声石の声を」

「まさか。あれ、ただの石だろ?」

リオはポケットから青白く光る石を取り出し、静かに手のひらに載せた。ルカが目を細める。「光ってる……? それ、魔石じゃないのか?」

「違う。これは、“誰か”の声を宿してる石。ユラって名前の……」

彼女が説明を始めると、ルカは呆れ顔になりかけたが、話の途中で石からかすかな声が聞こえた。

「こんにちは……?」

ルカが息をのんだ。「今の、聞こえたぞ……誰かが……!」

リオはうなずいた。「信じてくれる?」

「信じるしかないだろ、こんなの」

ルカは鍛冶の知識を活かし、石に何か刻印がないか、表面を丹念に調べ始めた。「この構造……人工的に加工されてる。これは、道具だ。作られた“何か”だよ」

その瞬間、ユラの声がまた響く。

「気をつけて……“封じ人”が動き出してる。わたしの声を感じ取ったかもしれない……」

リオは背筋を凍らせた。「どこにいるの?」

「……わからない。だが、すぐ近くまで来る……気配がある」

その晩、村の外れの森から黒い煙が立ち昇った。畑が焼かれ、飼い羊が姿を消した。誰も犯人を見ていない。けれど、リオとルカは確信していた。

「封じ人が、来たんだ」

「ユラの声が、本物だって証明されたな……」

リオは石をぎゅっと握りしめた。この声を守らなければ。たとえ誰が相手でも。

“情報”を恐れる者がいるなら、それは“情報”にこそ力がある証なのだから。