いつか戻る、その時に
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いつか戻る、その時に


「いつか戻る、その時に」のコメント

リオはそれから毎晩、石と話すようになった。声の主——ユラは少しずつ言葉を取り戻していった。最初は名前だけだったが、数日が過ぎると、断片的に記憶のかけらを語るようになった。

「たくさんの声が……重なってた。遠く離れていても、誰かの想いが届いて……」

「それって、他の伝声石のこと?」

「そうかもしれない。でも、やがて、声が……消えていったんだ。突然、全部……」

リオは、記録帳にその言葉を一つひとつ書き留めていた。かつて、世界が“声”でつながっていた時代があった。伝声石が各地にあって、離れた場所にいる人々が言葉や感情を交わしていたという。リオはそれを“物語”だと思っていたが、ユラの語る断片は、どうやら真実らしかった。

「誰かが……それを壊した。怖れていた。声が、世界を変えることを」

「それが……“封じ人”?」

「……その名を、聞いたことがある。封じ人は……言葉を、記憶を、封じてしまう者たち」

リオはぞっとした。村にも古い伝承がある。“かつて、言葉を奪う影が現れ、火と闇が広がった”と。子ども向けの怖い話だと思っていたが、ユラの声はそれを裏づけるようだった。

「でも、どうしてユラは石の中にいるの?」

「それは……わからない。たぶん……最後の瞬間、誰かがこの石に、わたしを……」

声はそこまでだった。記憶はそこで止まっているようだった。

その夜、リオは長老ハルのもとを訪れた。伝声石の話をすると、老いた目が細くなった。

「昔、この村にも一つだけあった。だが、いつの間にか声は途絶え、ただの石となった……それがおぬしの手に?」

リオは頷いた。

「もしその石が本物なら、封じ人の目に止まるかもしれん。気をつけよ……彼らは、まだどこかに潜んでおる」

リオは心に誓った。ユラの声を、二度と奪わせない。
忘れられた“声の時代”を、この手で取り戻すのだと。