消え去るダンジョン

mr.matsuさん

Gマスター

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深い森を抜けた先で、
木々に隠れるようにひっそりと佇む古い祠が姿を見せた。

長い年月を感じさせる苔に覆われ、
崩れかけた鳥居がわずかに残っている。

風が吹くたびに枝葉がざわめき、
まるでこの場所を守る者たちの声が響いているかのようだった。

朽ちた石段が祠の奥へと続いている。

地面には薄れた靴跡が残り、
多くの人が訪れた痕跡を物語っていた。

しかし、ほとんどが戻らなかったという噂もあるが、
それは脚色に過ぎないのかもしれない。

真実が分からないからこそ、
不気味な沈黙が漂っていた。

この奥には本来なら誰の目にも触れないはずの迷宮があるという。

ダンジョンは普段、
存在しないかのように森に溶け込み、
探しても決して見つけられない。

だが稀に入口が姿を現し、
見つけた者だけが挑戦を許されると噂されている。

祠の奥を見つめていると、
暗闇に隠れていた空間が揺れ、
巨大な迷宮の口が静かに開いているのが見えた。

確かにこの世界には、
潜むダンジョンが存在しているのだと肌で理解できた。

この場所には三つの話が囁かれている。

「入るたびにひとつだけ宝箱が生まれる」

「宝箱には本物か偽物の原石があり、
偽物はダンジョンを出た瞬間に煙の様に消え去る」

「本物を掴むと、出た瞬間に祠ごと消える」

最後に本物を手にした者は何十年も前に
一人。

その話は、惜しく本物の原石を手に出来なかった探索者の事も含めて、
今では子どもたちが胸を躍らせる英雄譚になっている。

誰もが憧れるそれが目の前にあっても、
まだ躊躇する話も頭を過ぎる。

「自分が潜っている最中に
他の誰かが本物を持ち出したら、
何が起きるのか誰も知らない」

この不確かな恐怖こそが、
探索者を一歩踏み出すことから遠ざけている。

普段は見つけられないこのダンジョンは、
生き物のように息を潜め、
足を踏み入れる者を待ち構えているかのようだった。

これ以上ありません。