マスオさんがプレミアムフライデーをアナウンス!?　有線放送の“謎チャンネル”についてUSENに聞いてきた

飲食店やスーパーなどで流れるBGM。最新のヒット曲や懐メロ、J-POPのインストゥルメンタルなどさまざまですが、それらを流しているのが「有線放送」です。

有線放送を提供している事業者はいくつかありますが、国内のトップシェアを誇る会社がUSENです。有線放送＝USENと覚えている人も多いでしょう。

また、USENの有線放送は「音楽が流れる」イメージを持っている人が多いかもしれません。でも実は、音楽以外のチャンネルも存在するんです。

541チャンネル【※1】の中には、般若心経をずっと唱え続けている番組や、作業のミスを軽減するクラシック音楽、さらには大学と協力して生まれた「冷え性に悩む女性のための音楽」なるものもあるとか。これは気になりますね……。
※1　音楽番組を中心としたデジタル音声多チャンネル一般放送サービス「サウンドプラネット」の、衛星放送の番組数。

そんな謎チャンネル（？）の正体を突き止めるため、運営会社であるUSEN－NEXT　GROUPの「USEN」を取材。

コンテンツプロデュース統括部編成部編成課課長・瀬戸彰人さんと、USENの広報を担当しているUSEN-NEXT HOLDINGSコーポレート統括部広報部マネージャー・清水さやかさんにお話を伺いました（聞き手：辰井裕紀）。

▲取材に応じてくれた、USENの瀬戸さん
　

ちょっと変わったチャンネルを用意するワケ

USENさんによる有線放送は、いつはじまったんですか？

前身の大阪有線放送社が創業した1961年からです。「歌謡曲」と「洋楽ムード」の2本からスタートしました。

2本だけ？　すごくシンプルな構成ですね。

はじまりは夜のお店から。当時置かれていたレコードは、曲が終わり次第、針を置き直さなければならなくて。そこで「自動で音楽を流せるようにしよう」と考えられたのが最初でした。その考えはいまも同じで、有線放送を利用いただく店の方にはメインの業務があるので、「BGMに関してはおまかせください」と。そのためにいろんな番組を作っています。

その中に、変わったチャンネルもあるワケですね。

はい。まずお店用の「ショッパーズ・ツール」があります。

▲ショッパーズ・ツールの一覧表

業務に手を取られているとき、「閉店の音楽」「注意喚起」などを流す番組があると、手間が省けますから。そのほかユニークなチャンネルもありますが、単に面白いだけでなく、「こんな使い方をしてくれるのでは？」という狙いから作っています。

▲家路や軍艦マーチ、ロッキーのテーマなど、気になるチャンネルがたくさん

般若心経や川のせせらぎが24時間流れるチャンネル

般若心経のチャンネルが気になりますね。24時間ずっと般若心経が流れているんですか？

そうです。この番組はホントに需要があって、数十年ずっと続いています。寺院で流していただいていたり、個人宅では年配の方が仏壇で流していただいたり【※2】。
※2　USENの有線放送は法人だけでなく、個人の家庭向けにも提供されている。

「日本の清流」は、川選びからこだわります。川のせせらぎを再現するのはすごく難しくて。どんな川の音がいいか、どんな録音の仕方がいいかを考え、収録時には何十テイクも回します。車の音などが入って、NGになることもあるので。

▲具体的な名前は教えてもらえなかったが、信州あたりの川で録音したらしい

録音には2～3日かけることもあります。ものによっては、もっと日数がかかることも。

そんなに時間をかけるんですね。思っていたより大変そう……。

24時間「ロッキーのテーマ」を流し続けるチャンネル

ちなみに「ロッキーのテーマ」を24時間延々と流すチャンネルがありますが、どんな方が聞くんですか？

たとえば、会社で働いている方です。「仕事がんばろう」と気持ちを盛り上げられます。あと、家では目覚まし時計として流したり【※3】、スーパーではタイムセール中に流したり。ずっと人気のチャンネルですね。
※3　チューナーのプログラムタイマー機能で、目覚まし時計のような使い方もできる。

「ロッキーのチャンネルで残業時間が24％削減された」とも聞きましたが、本当ですか？

はい。そうみたいです。ここは、広報から説明させてください。

広報部の清水さんによると、残業時間が24％軽減されたのは、ハウスメーカーの三井ホームさんの事例。オフィス向けのUSEN導入前と導入後で、どう残業時間が変化したのか検証した結果とのこと。

ロッキーが流れたらみんな立ち上がって、終礼をする。そこで「あと何時間残るか」を宣言し合う。その結果「みんなが仕事を続ける中、自分だけ先に帰るのは気まずい」といった認識もなくなり、むしろちゃんと帰る意識になったそう。「USENと終礼を組み合わせた好事例だと思います」と、清水さん。

「羊の数」には、隠しメッセージがある!?

「羊の数を延々と数える」なんて、変わったチャンネルもありますよね。「1000匹数えたときに隠しメッセージが出る」という都市伝説があるようなのですが、ホントですか？

それはトップシークレットでして（笑）。ぜひ聞いて確かめてみてください。あながち、都市伝説でもないと思います。

ちなみに、通常は1匹、2匹とカウントが進んでいきますよね。でも、戻ることもあるんですよ。

へええ！　ますます聞いてみたくなりました。途中で寝ちゃうんでしょうけど。

自分の居場所をカモフラージュする「アリバイ」

たとえば既婚者の方が奥さまに「今日上司と飲み会で、帰りが遅くなる」と電話する際に、町の雑踏の音が流れる「アリバイ」を流すのです。実は別の所にいても、バックでこれを流せばカモフラージュできます。この番組は1980年代ごろにスタートしました。

いろいろ使えそう。80年代の息吹を感じるチャンネルですね。

▲USENの受信機。「アリバイ」のチャンネルに合わせると、街の中にいるような音が流れた

当時は音楽サービスが世に普及していなくて、さまざまな用途に対応できるようにするため、いろいろ番組を作りました。なので、「アリバイ」チャンネルも昔は3～4種類ありまして。

どんな音があったんですか？

録音スタジオへ実際に雀卓を置いて、麻雀をする演技をして収録したり、カラオケで歌っているところを録音したり。

なるほど。一人暮らしの友だちのいない大学生がカラオケの音を流しながら実家に電話して「いま友だちとカラオケに来ているよ」と、親を安心させることもできたわけですね。

使い方は自由です。現在の「アリバイ」は、街の雑踏の音だけですけどね。

「和風系」のチャンネルがトレンド？

最近では東京オリンピックに向けて、来日する外国の方が増えているので、和楽器を使う「和風ジャズ」をはじめ複数のチャンネルを作りました。

（曲を聴きながら）お茶のCMで流れていそうな曲ですね。

欧米人にとってジャズは身近で、そのリズムを異国で聞くと安心感が出ます。そこに和のエッセンスを入れています。

ほかに和風シリーズのオススメは？

おそば屋さんなど、いちばんよく使われているのはお琴ですね。

（聴きながら）確かに、よく流れていますね。条件反射でざるそばが食べたくなる……。

こういう曲はあまりCD化されませんが、BGMとしての需要はすごく高くて。お琴でJ-POPをカバーしたものもありますよ。

（聴きながら）これ、「小諸そば【※4】」あたりで流れてそうですね。
※4　東京地盤の立ち食い蕎麦チェーン。安さとセルフサービスの長ネギが魅力

和風な曲の中でも、J-POPのカバーならば親近感が湧いて、お店に入りやすい雰囲気になります。

マスオさんが勧める「プレミアムフライデー」

有線放送はお店で流れているイメージが強いですが、2013年からオフィス向けに特化した放送があると聞きました。

はい。弊社の「Sound Design for OFFICE」ですね。休むときはしっかり休み、働くときには集中してもらう、そんなメリハリある「働き方改革」のお手伝いをする意味で作りました。

どんな番組があるんですか？

「ノー残業デーアナウンス」など、働く側に立ったチャンネルがあります。「プレミアムフライデーコメントアナウンス」は、「サザエさん」のマスオさんの声で知られる声優・増岡弘さんに声を担当していただいています。

（アナウンスを聞いて）すごい、マスオさんだ……。これは一気に耳を澄ましますね。

オフィスでこれが流れたとき、「マスオさん？」となって耳を傾けてもらえます。すると、情報が耳に入ってきて、「休み取ろうか？」と意識が変わっていくと思うんですね。そのほか、「タッチ」のヒロイン・浅倉南役の声優を務める日髙のり子さんや、「サザエさん」のアナゴさん役や「ドラゴンボールZ」のセル役で知られる声優・若本規夫さんにも担当していただいています。

声優界の重鎮がそろう豪華なラインアップですね！　耳なじみのある声優さんを起用したのはなぜですか？

特徴のない声ではスルーされますからね。聞いたことがある声なら反応してくれます。あとマスオさんはサラリーマンやパパの代表なので、マスオさんの声で「今日は家族と何しよう？」とセリフが流れると、聴いている方も「今日は早く帰って家族と過ごそう」と連想してもらえるのではないでしょうか。

働く人のミスを軽減するクラシックがある!?

あと、「働く人のミスを軽減するクラシック」も気になったんですけども。

はい、「金融機関向けクラシック」のチャンネルですね。金融機関は受付が15時で閉まって、そのあとに締め作業が発生します。夕方から夜にかけて、細かく正確な作業をするときに、集中力を高める目的で作られました。

このチャンネルでは「116bpmの曲は集中力が増す」という文献を参考に、116bpmのテンポのクラシックを流しています。開店時はお客さんのことを考えた音楽を、そして受付が終わったあとは、オフィスの人たちのことを考えた音楽を流します。1つの番組の中でも、時間ごとにBGMの内容を変えているんです。

「116bpmで集中力がアップする」という、効能の裏付けをもとに作っているんですね。

そうですね。逆に裏が取れていないものは、実際に効能があるのか検証します。冷え性対策BGMの「はたらく人にやさしいクラシック」も、諏訪東京理科大学と共同研究を行い、検証しました。実際、何人かの方々にいろんな音楽を聴いてもらったところ、クラシックの音がいちばん全員の血流が良くなる結果が出たんです。血流が良くなって副交感神経が高まれば、冷え性も治っていく、と。

なるほど。データはあるんですか？

サーモグラフィーで確認すると、実際に指先の温度が上がっています。

▲20～50代の女性を対象に行った調査で、試聴前に比べ、クラシック試聴中に血流が高くなることがわかったそう

一風変わったチャンネルは「代打の切り札」的存在

これらの変わったチャンネルたちは、USENさんの有線放送にとって、どんな存在ですか？

「代打の切り札」ですね。スタメンのようにいつも出番があるわけではないけど、ふとしたときに「あってよかった」と思えるもの。

とりあえずUSENに入れば、だいたいなんでもカバーできるという。

それは目指していますね。いろんなケースで使い勝手がいいサービスでありたいと思っています。

お店でよく耳にする有線放送。その中の「一見ただ面白いだけに思えるチャンネル」も、誰かの役に立つためにあることを知りました。

一服の清涼剤になり、「あって良かった！」と喜ばれる有線放送の“謎チャンネル”。この記事だけではまだまだ解明できないその世界、ぜひ聴いて探求してみてほしいと思います。

それでは、このへんでお別れです。別れといえば「蛍の光」ですが、お店の閉店・終了時に流れるこの曲も有線放送で流せます。

ご覧いただき、ありがとうございました。

取材協力・画像提供：USEN-NEXT HOLDINGS／USEN

（編集：ノオト）